生産スケジューラ導入は大型プレス2台から 記録の手順|モーターコアのAI生産スケジューリング 5
2026.11.01A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい全5回の最終回です。前回は年間Return値を6つのコストダウン項目に分けて計算し、結果を最も左右するのが段取り削減率であることを説明しました。今回は、その削減率を自社の実測に置き換えるための導入の進め方と、データの準備を扱います。

対象は5工程のうちボトルネックの大型プレス機の1工程に絞り、導入前と導入後に1か月ずつ段取りを記録します。最適化AIに入れるデータは5つあり、このうち新たに記録するのは、導入前1か月の段取りだけです。
1. よくある不安
| よくある不安 | 不安の原因 |
|---|---|
| 全工程を一度に変えるのは難しい | 5工程の計画の立て方を同時に変えると、現場の確認と手直しの量が一度に増えるため |
| 現場が使ってくれないかもしれない | 計画担当者や段取り工の経験による判断が、計算結果に置き換えられると感じるため |
| データをそろえるのが大変 | 品番ごとの金型と、かしめか接着か、段取り時間、試し打ちで捨てた長さが、紙の記録や担当者の記憶にしか残っていないため |
2. 不安を小さくする3つの視点
(1) 1工程からスモールスタート
対象を1工程に絞れば、集めるデータは、その工程を流れる品番と、段取りに関わるものだけです。計画を確認する人も、計画担当者と段取り工に限られます。
(2) ベテランの勘は制約条件として文書化する
機種Aの金型は2号機でないと寸法が安定しない、接着の品番は作業者がそろう昼の時間に流す、などの決まりは、ベテランの段取り工が覚えているだけで、文書には残っていません。このように、経験から身についていても言葉になっていない知識を暗黙知と呼びます。これを文書にして、ほかの人や生産スケジューラが使える形にした知識が形式知です。これらの決まりを制約条件として生産スケジューラに入れれば、暗黙知が形式知になり、ベテランの判断が計画に残ります。
(3) リスケジュールで、何度でも作り直せる
最初の計画が現場で守っている決まりに合わなくても、制約条件の設定を変更してリスケジュールすれば、計画を作り直せます。計画担当者が毎回同じ箇所を直しているなら、その内容を制約条件として加えます。試したあとで設定を変更できるため、始める前に条件を完全にそろえる必要はありません。
3. 最初に選ぶ工程は大型プレス機。導入前後の段取りを記録する
最初の1工程は、第1回で説明したボトルネックの大型プレス機にします。導入前と導入後で比べて段取り削減率を出す数字は、月間段取り時間です。
導入前と導入後の記録は、1か月ずつとります。段取り1回ごとに書く項目は、①日時、②前後の品番と金型、③かしめか接着か、④コイルの継ぎ替え、金型の交換、かしめと接着の切替のどれか、⑤段取りにかかった時間、⑥クレーンと段取り工の手が空くのを待った時間、⑦試し打ちで捨てたスリット材の長さです。捨てたスリット材の長さは段取り時間とは別に数え、材料のコストとして、第4回の段取りコストの見直しに使います。

最適化AIに入れるデータは、次の5つです。段取り時間と捨てる長さは導入前の記録から求め、ほかの4つは品番と設備の台帳と、在庫とオーダの記録から集めます。
- 品番ごとの金型、電磁鋼板の等級と厚さとスリット材の幅、かしめか接着か
- コイルの継ぎ替え、金型の交換、かしめと接着の切替の段取り時間と、試し打ちで捨てる長さ
- 見込生産品ごとの安全在庫と現在の在庫
- 受注生産品のオーダごとの納期と数量
- プレス機の台数、天井クレーンの台数、段取り工の人数、金型ごとの研ぎ直しの時期
4. 次に広げる工程は、スリッター
次にどの工程へ広げるかは、導入後の大型プレス機の待ち時間と、その手前のスリット材の待ち時間を見て決めます。大型プレス機の段取り時間を短縮しても、スリッターで切ったスリット材が届かずにプレス機が待てば、ボトルネックが止まる時間が増えます。反対に、先に切ったスリット材がプレス機の前に何時間も積まれていれば、仕掛品が増えます。
この2つの待ち時間が長ければ、次はスリッターです。広げる段階では、第3回で説明した工程の同期を、スリッターと大型プレス機の間で行います。

まとめ ― 順番を変えれば、未来が変わる
全工程を一度に変えなくても、ボトルネックの大型プレス機の1工程から始められます。導入前後の段取り時間を同じ項目で記録すれば、第4回の段取り削減率30%を実測値に置き換えられます。試し打ちで捨てたスリット材の長さの記録は、段取りコストを自社の数字で確かめるのに使います。
設備を増やす前に、生産順序を変えることでスループットを増やせるかどうかが、1工程で分かります。あなたの工場で、大型プレス機の段取りを1か月記録するとしたら、誰がどの項目を書くことになるでしょうか?
解説動画
この回の内容を、動画でも説明しています。
第1回から読む
全5回の最終回です。第1回から通して読むと、工場の全体像から導入の進め方までを順にたどれます。
高橋邦芳 + Asprovaコンサルティングチーム + 生成AI
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