【金属部品・プレス部品のAI生産スケジューリング 5】失敗しない導入 ~ プレス成形の1工程から始める進め方

2026.09.30A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

全5回の最終回です。前回は年間Return値を計算し、6つのコストダウン項目に分けて内訳を確認しました。今回は、最初の1工程をどう選び、何を準備するかを扱います。

1. よくある3つの不安

導入を検討する段階で、現場からは次の3つが挙がります。どれも、進め方を決めておけば解消できるものです。

よくある不安不安の原因
全工程を一度に変えるのは難しい5工程を同時に切り替えると、現場の負担が大きくなるため
現場が使ってくれないかもしれないベテランの判断が計画から外されると感じるため
データを揃えるのが大変新しいシステムのために情報を集め直す必要があるため

2. 不安をほどく三つの視点

(1) 1工程からのスモールスタート

最初から全工程を対象にする必要はありません。1工程に絞れば、計画を作り直す範囲も、集めるデータの量も小さくなります。効果が確認できてから次の工程に広げれば、負担も投資のリスクも抑えられます。

(2) ベテランの勘は制約条件として残す

最適化AIは、熟練者の判断を置き換えるものではありません。この品番は3号機でしか寸法が出ない、この金型は連続して使うと熱を持つので2ロットまでにしたい、といった現場の判断は、制約条件として計算に取り込めます。条件は後から足せるので、運用しながら書き加えていけます。

どう書き表せばよいか迷う条件は、ベンダー(開発元)に相談してください。制約条件の書き方は生産スケジューラごとに決まっており、ベンダーは現場の説明を聞いてその形式に書き直せます。勘を文書にしておけば、担当者が替わっても同じ品質の計画をつくり続けられます。

(3) 計画は固定されず、いつでも組み直せる 導入してみて条件が合わなければ、リスケジュールで組み直せます。第3回で見たとおり、条件を入れ替えて計算し直すだけで、数分で新しい計画ができます。変えられると分かっていれば、まず試すという判断がしやすくなります。

3. 最初に選ぶのは、ボトルネックのプレス成形

第1回で見たとおり、この工場のボトルネックはプレス成形です。ここから始めるのは、工場全体のスループットを左右している工程だからです。ほかの工程で段取り時間を短くしても、工場全体の出荷量は増えません。

比べる数字は、プレス成形の月間段取り時間の1つに絞ります。導入の前と後で1か月分ずつ記録すれば、削減量を実測できます。第4回で置いた削減率25%を、自社の数字に置き換えられます。

必要なデータは4つだけです。新しいシステムは要りません。

・品番ごとの金型と材質です。どの品番がどの形状の金型を使い、どちらの材質かが分かれば、切替ごとの段取り時間を見積もれます。

・工程ごとの段取り時間です。金型の上型だけの交換、一式交換、材質切替の清掃を、それぞれ何分かかるか記録します。

・見込み生産品の安全在庫と残数です。どの品番がいつ安全在庫を割るかを計算するために使います。

・受注生産品の納期です。受注ごとの約束日が分かれば、納期から逆算して着手の時期が決まります。 プレス成形で効果を確認できたら、次は前工程のコイル切断に広げます。板厚と板幅をそろえる順番がプレス成形の段取りに影響するため、2つをつなげて計画すれば、削減できる段取り時間がさらに増えます。

まとめ ― 順番を変えれば、未来が変わる

この連載では、プレス部品の工場を題材に、生産順序が利益を左右することを見てきました。第1回で工場の全体像を押さえ、第2回で4つの困りごとを整理し、第3回で4つを同時に満たす考え方を示し、第4回で年間2,511万円という金額に置き換えました。

全工程を一度に変える必要はありません。ボトルネックの1工程から始め、プレス成形の段取り時間という1つの数字で効果を確かめながら、前後の工程へ広げていけます。

増員や設備の増設を考える前に、生産順序の見直しで、いまある設備の稼働時間を取り戻せます。あなたの工場のプレス機は、来月、何時間を段取りに使う予定でしょうか?

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