【金属部品・プレス部品のAI生産スケジューリング 3】解決策 ~ 4つの要件を1回の計算でまとめて満たす

2026.09.30A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

全5回の3回目です。前回は、欠品の発見と前倒しの指示、段取りの増大、ロットサイズのジレンマ、在庫の増加という4つの困りごとを見ました。今回は、この4つを同時に扱う方法を説明します。金額は第4回で扱います。

1. 人が生産順序を決めるときの限界

この工場では1日におよそ40品番を流します。40品番を並べる順番の数は、40の階乗、およそ10の48乗になります。計画担当者が検討できるのは、経験から選んだいくつかの並びだけです。

しかも、ある順番が良いかどうかは、並べた順に1回ごとの段取り時間を足し合わせ、合計を出すまで分かりません。第1回で見たとおり、1回ごとの段取り時間は、前にどの品番を流したかで60分から240分まで変わるためです。ある順番で合計が短くなっても、さらに短くなる順番がほかにないとは言い切れません。それを確かめるには、ほかの順番の合計もすべて出して比べる必要があります。

さらに、判断すべき条件は段取りだけではありません。見込み生産品の在庫の残り、受注生産品の納期、プレス機ごとの空き時間、後工程のめっきラインの混み具合を同時に見ながら決める必要があります。1つずつ順に決めていくと、先に決めたことと後に決めたことが食い違います。

2. 最適化AIができること

生産計画を人手ではなく計算でつくるしくみがあります。これを生産スケジューラと呼びます。生産スケジューラのうち、守るべき条件を与えると、その条件を満たす範囲で最も良い順番を計算で探し出すものが最適化AIです。

与える条件には、金型の交換時間、材質を切り替えたときの清掃時間、クレーンが1基であること、見込み生産品の安全在庫、受注生産品の納期などが入ります。こうした条件を制約条件と呼びます。現場が守ってきた決まりを、計算の前提として組み込めます。 最適化AIが扱うのは、次の4つの要素です。

最適化の要素内容対応する課題
作業の設備への割付け同じ金型を使う品番を同じプレス機に寄せる課題2 (段取り)
投入順序最適化金型と材質の並びを考えて、流す順番を決める課題1 (悪循環)
ロットサイズの決定在庫の残りと納期から、1回の生産数量を決める課題3 (ジレンマ)
工程の同期前後の工程をボトルネックのペースに合わせる課題4 (在庫)

1つ目の割付けでは、同じ金型を使う品番をできるだけ同じプレス機に集めます。そのうえで、特定のプレス機だけに仕事が偏らないように、設備ごとの負荷をならします。この調整を負荷平準化と呼びます。 人が計画を立てるときは、この4つを順番に決めていきます。最適化AIは4つを別々に決めるのではなく、まとめて1回で計算します。そのため、先に決めた条件と後から決めた条件が矛盾しません。

3. 生産順序を組み替えると、何が起きるのか

(1) 金型をまとめる

①形状Aの板厚1.0mm、②形状Bの板厚1.0mm、③形状Aの板厚1.6mmという3つのロットを流すとします。納期の近い順だけで並べると、この並びになることがあります。オーダは形状に関係なく入ってくるためです。このとき①から②へ、②から③へと形状が2回変わるので、金型の一式交換が2回、合わせて300分かかります。

①と③を続けて流し、その後に②を流す順に組み替えます。①から③へは板厚だけの違いなので上型の交換だけで60分、③から②へは一式交換で150分です。合計210分となり、差し引き90分短縮できます。

(2) 材質をまとめる

軟鋼板とステンレス鋼板を交互に流すと、軟鋼板からステンレス鋼板に切り替えるたびに90分の清掃が発生します。ステンレスの品番を月内でまとめて流せば、90分の清掃はプレス機1台につき月1回で済みます。前の月を軟鋼板で終えていれば、この1回は避けられません。ステンレス鋼板から軟鋼板へ戻す30分の清掃も、月に1回になります。

(3) 4つを同時に満たす

金型と材質の都合だけで並べると、別の問題が出ます。次の順で決めていく場合を考えます。

1つ目に、欠品が近い品番と納期が近いオーダを先に並べます。2つ目に、在庫の残りと納期を確認してロットサイズを決めます。3つ目に、金型と材質の並びを考えて順序を変えます。

3つ目で材質をまとめた結果、1つ目で前に置いた欠品の近い品番が後ろにずれる、といったことが起きます。ずらした分を元に戻すと、今度は段取り時間が増加します。1つずつ順に決めるやり方では、欠品と段取り時間のどちらかを犠牲にするしかありません。

最適化AIは、安全在庫、納期、段取り時間、ロットサイズの4つを1つの計算の中で同時に扱います。そのため、在庫Min違反回数を増やさずに段取り時間を短くする順番を見つけられます。ロットサイズを大きくしなくても、生産順序を組み替えるだけで段取り時間は短縮できます。 段取り時間はゼロにはなりません。品番が変われば金型の交換が必ず必要だからです。減らせるのは、総段取り時間のうち、生産順序の組み方によって生じていた分です。この連載では、その削減率を25%と置きます。

4. 計画が変わったときの立て直し

計画どおりに進まない日は、毎月のように起きます。プレス機が1台止まる、材料の入荷が1日遅れる、急ぎのオーダが入る、といったことが起こります。そのたびに、残りの順番を組み直す必要が生じます。

人が生産スケジュールを、一から作り直すと半日はかかります。約400品番の在庫と納期をすべて見直す必要があるためです。その間は古い計画のまま現場が動き、生まれたずれは後から特急対応で埋めることになります。

最適化AIの場合、条件を入れ替えて計算をやり直すだけで、数分で新しい計画ができます。この作り直しをリスケジュールと呼びます。

リスケジュールなら、プレス機が止まったその日のうちに残りの品番の順番を組み直せます。そのため、残業で埋める以外の対応を選べます。順番を組み替えて間に合わせる、空いている別の設備に振り替える、といった手です。 できあがった計画は、計画担当者が確認し、現場の事情に合わない箇所だけを直します。すべてを任せきりにするのではなく、最後の判断は人が行います。直す内容が毎回同じであれば、それは制約条件として計算に組み込めます。

まとめ ― 設備を買い替えずに、生産順序で成果を出す

プレス機の加工そのものを速くするには、より高速な設備に買い替えるしかありません。1台あたり数千万円の投資が必要になります。一方、どの設備でどの品番をどの順につくるかという生産順序を見直す方法なら、投資は要りません。新しい設備も追加の人員も使わずに、段取り時間と在庫を同時に減らせます。

前回の4つの困りごとは、欠品しそうな品番や急ぎのオーダが出るたびに、つくる順番を入れ替えていることから生まれていました。安全在庫、納期、段取り時間、ロットサイズを同時に見ながら順番を決められるようになれば、4つの困りごとは同時に改善します。ボトルネックであるプレス成形の止まる時間が減れば、その分だけスループットが増えます。

次回は、この改善が1年でいくらのリターンになるのかを、自社の数字で検算できる形にして計算します。あなたの工場では、設備が1台止まったとき、計画を作り直すのにどれくらいかかっているでしょうか?

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