【金属部品・プレス部品のAI生産スケジューリング 2】課題 ~ 現場を消耗させる4つの困りごと
2026.09.30A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい全5回の2回目です。前回は工場の全体像と、生産管理で押さえる5つのポイントを確認しました。今回は、現場で実際に起きている困りごとを4つに整理します。ここで挙げた困りごとは、第4回で金額に置き換えます。

想定する工場
第1回で見た中規模のプレス部品工場です。約400品番のうち8割が見込み生産品、2割が受注生産品です。軟鋼板とステンレス鋼板のプレス部品を、自動車部品メーカー、産業機械メーカー、家電メーカーに納めています。生産計画は、計画担当者2人が表計算ソフトを使って毎日つくり直しています。
課題1. 欠品の発見と前倒しの指示が生む悪循環 (根本原因)
見込み生産品の在庫は、出荷のたびに毎日減っていきます。管理担当者は、その残りを日々確認しています。ここから悪循環が始まります。
1つ目に、管理担当者が欠品の近い品番を見つけます。出荷のペースに対して在庫の残りが足りなくなるためです。2つ目に、その品番を先につくるよう現場に指示します。欠品を出せば納入先の組立ラインが止まるためです。
3つ目に、後回しにされた品番の着手が遅れます。プレス機は6台しかなく、先に入れた分だけ後ろが押し出されるからです。遅れた品番はやがて欠品に近づき、ここで1つ目に戻ります。
この特急対応のたびに、形状と材質ごとにまとめていた生産順序が保てなくなります。形状の違う金型への交換が増え、軟鋼板とステンレス鋼板が交互に流れて清掃も増えます。結果として段取り時間が増加し、製品をつくれる時間が減るため、遅れはさらに大きくなります。
在庫の確認と指示に、管理担当者2人で月120時間を使っています。この120時間を使っても、工場全体のスループットは増えません。指示によって順番が入れ替わるだけで、つくれる量そのものは変わらないためです。製品を直接つくる作業ではないため、その人件費は間接人件費として積み上がります。
課題2. 段取り時間とコストの増大
5工程の段取り時間は合わせて月480時間で、その半分の240時間がプレス成形です。1台あたりでは月40時間になります。1日8時間の稼働に置き換えると、月20日のうち5日はプレス機が製品をつくっていない計算になります。
段取りにかかるコストは3つに分かれます。
・段取り人件費です。段取りは生産の合間に行うため定時を超えることが多く、残業になります。
・資材と電力のコストです。清掃に使う洗浄剤、試し打ちで捨てる材料、設備を暖機するための電力がかかります。
・止まっている設備の償却費です。償却費は設備が止まっていても毎月同じ額がかかりますが、段取りの間は、その償却費を回収する製品が1個もつくられません。
第1回で見たとおり、段取り時間は前にどの品番を流したかで変わります。形状の近い金型を続けて流せば上型の交換だけで済み、同じ材質をまとめれば清掃は短くなります。つまり月480時間のうち一部は、生産順序の組み方によって生じている時間です。
課題3. 大ロットと小ロットのジレンマ
ロットサイズを大きくすると、切替が減って段取り時間は短縮します。ただし後ろに並んだ別の品番の補充が遅れ、在庫Min違反回数が増えます。さらに、1回にまとめてつくる量が多くなるぶん、在庫そのものも多くなります。
逆にロットサイズを小さくすると、補充は速くなり欠品は減ります。ただし切替が増えて段取り時間が増加し、残業と資材のコストが増えます。ボトルネックのプレス成形では、製品をつくれる時間そのものが削られます。
現場の方針は、この2つの間を行き来します。大ロットにまとめると製造リードタイムが伸び、補充が遅れて欠品が出ます。そこで小ロットに戻すと、今度は切替が増えて段取り時間が増加し、また大ロットに戻ります。
最適なロットサイズは、状況に応じて変わります。見込み生産品では品番ごとの出荷のペースと在庫の残りが、受注生産品ではオーダの量と納期までの余裕が、需要の動向によって増えたり減ったりするためです。 この最適値を計算する手立ては、実際にはありません。品番は約400あり、金型と材質の組み合わせによって段取り時間が変わります。ロットサイズを変えたときに何がどれだけ動くのかを、手作業で見通すことはできません。
課題4. 在庫保有コストの増大
欠品を避けようとすると、在庫は増えます。安全在庫を高めに設定し、そのうえで念のための上乗せを重ねるためです。工程の間にも作りかけの品、つまり仕掛品がたまります。工程間の待ち時間が長く、その結果、製造リードタイムが大きくなると仕掛品在庫が増大します。
原材料、仕掛品、製品は、会計上棚卸資産として扱われます。企業会計基準第9号がこの範囲を定めています。この工場の棚卸資産は2億4,000万円です。 在庫を持つと、倉庫の保管コストと、資金が使えないことによるコストがかかります。これを在庫保有コストと呼びます。このコストが在庫額の何%にあたるかを保管コスト率と呼び、この工場では10%と見ています。2億4,000万円に対して年2,400万円が、製品を1個も増やさないまま出ていく計算です。
まとめ ― 4つの困りごとには共通の原因があります
4つの困りごとは、互いにつながっています。欠品を恐れて在庫を多く持てば資金が固定されます。それでも約400品番すべてに多めの在庫は持てないため、在庫の少ない品番から欠品が近づき、特急対応が増えます。特急対応が増えれば段取り時間が増加し、その分を取り戻そうとロットサイズを大きくすると、今度は補充が遅れて欠品に近づきます。
原因はどれも同じで、欠品しそうな品番や急ぎのオーダが出るたびに、つくる順番を入れ替えていることにあります。ただし順番を入れ替えざるを得ないのは、現場の能力が足りないからではありません。欠品を防ぐ、納期を守る、段取り時間を減らす、在庫を減らすという4つの要件が互いに相反しており、そのすべてを同時に満たす順番を、人が手作業では見つけられないからです。どれか1つを優先すれば、ほかの要件のいずれかが守れなくなります。 次回は、この4つを別々に決めるのではなく、まとめて1回で計算するという考え方を扱います。あなたの工場では、明日つくる品番の順番は、何を基準に決まっているでしょうか?

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