【金属部品・プレス部品のAI生産スケジューリング 1】基礎知識 ~ 400品番が流れるプレス工場の全体像

2026.09.30A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

この連載は全5回です。1回目の今回は、プレス部品をつくる工場がどんな設備と工程で動いているかを押さえます。2回目以降では、そこで生まれる課題、解決の考え方、金額、導入の進め方の順に進みます。

1. 金属部品とは

金属の板材や線材を加工して目的の形に仕上げた部品を、金属部品と呼びます。樹脂部品に比べて強度と耐熱性に優れるため、力がかかる箇所や高温になる箇所に使われます。自動車1台には数千点の金属部品が組み込まれており、その多くが板を加工してつくられています。

2. プレス部品とは ― 用途と構成部品

金属の板を金型ではさみ、力を加えて切り抜いたり曲げたりしてつくる部品が、プレス部品です。削り出して形をつくる切削加工と違い、1回のストロークで成形が終わります。金型をつくる初期のコストはかかりますが、同じ形を大量につくるほど1個あたりの単価は下がります。

自動車のブラケットやシートフレームの金具、モーターの鉄心、家電のシャーシ、住宅設備の金具などが代表例です。いずれも、より大きな製品に組み込まれる構成部品です。納入先の自動車や家電の生産は毎月続くため、同じ品番のオーダが毎月繰り返し入ります。

必要になるのは、材料と金型です。材料はコイル状に巻かれた鋼板で、これを一定の幅に切ってからプレス機に送ります。

金型は上型と下型の一組で、この間に板をはさんで形をつくります。順送プレスの金型には、切る、曲げる、絞るといった加工の場所が、板の流れる方向に順番に並んでいます。プレス機が1回上下するたびに板が一定の間隔(ピッチ)ずつ送られ、それぞれの場所で加工が1つずつ進みます。最後の場所を通り抜けたとき、1個の部品ができあがります。

この工場の品番は、材質、板厚、製品形状、表面処理の組み合わせで決まります。材質は軟鋼板とステンレス鋼板の2種類、板厚は0.6mmから3.2mmまで6段階、製品形状は約30種類です。この3つで360通りになります。

ここに亜鉛めっきの指定が加わります。めっきをかけるのは屋外や水回りで使う一部の形状に限られるため、40通りほど増えて約400品番になります。そのうち約320が在庫を持って補充する見込み生産品、残る約80が客先の図面で受注ごとにつくる受注生産品です。

見込み生産品は、需要を見込んで在庫を持ち、在庫が決められた下限を下回る前に生産して補充します。この進め方を在庫補充生産と呼びます。受注生産品は、オーダを受けてから納期に合わせて生産します。

在庫を補充する見込み生産品と、オーダに応じる受注生産品が、同じ設備の上で同時に流れている点がこの工場の特徴です。見込み生産品は在庫の残りから、受注生産品は納期から着手の時期が決まるため、順番を決める基準が品番によって違います。

3. 典型的な工場と、スケジュールの対象となる工程

ここでは、月に約180万個を出荷する中規模のプレス部品工場を想定します。材料を切るところから検査までの5工程を、生産スケジュールの対象とします。

熱処理の工程は含みません。この工場には設備がないためです。扱う部品は板厚3.2mm以下の軟鋼板とステンレス鋼板に限られ、成形時に金属が押しつぶされて硬くなる加工硬化で、必要な強度が出ます。

ある品番の生産を終えて次の品番に移るとき、金型や治具を替え、材料や処理液を入れ替え、試しに流して寸法や品質を確かめる作業が必要です。この切り替え作業を段取りと呼びます。下の表の段取り時間は、この作業に1回あたりかかる時間です。

工程は表の順に進みます。コイル材をスリッターで必要な幅に切り、順送プレス機で成形します。成形で出た切り口の細かな突起をバリと呼び、バレル研磨機の中で部品同士をこすり合わせて落とします。その後にめっきを施し、画像選別機で寸法と外観を検査します。

工程設備台数設備単価作業者段取り条件段取り時間月間段取り
コイル切断スリッター2台3,0002人板厚と板幅30分48時間
プレス成形順送プレス機6台8,0006人金型と材質60〜240分240時間
バリ取りバレル研磨機4台2,0002人研磨材の入替45分72時間
表面処理めっきライン2ライン6,0004人処理液の切替90分60時間
検査・選別画像選別機5台1,5002人治具の交換15分60時間
合計———16人——480時間

設備単価は、その設備を1時間動かすためにかかる金額です。設備の購入代金を使用年数で割った償却費と、電力、保守の合計を稼働時間で割って求めます。作業者の時間単価は2,600円から3,100円の範囲にあります。 設備と作業者のほかに、計画担当者と管理担当者が2人ずついます。計画担当者は、どの品番をいつどの設備で流すかを毎日決めます。管理担当者は、在庫の残りと生産の進み具合を確認します。

(1) プレス成形の段取り時間は、前に何を流したかで変わります

表のとおり、プレス成形の段取り時間は1回60分から240分まで幅があります。この幅は2つの要因が重なって生まれます。

1つ目は金型です。製品形状が同じで板厚だけが違う場合は、下型を残して上型だけを替えればよく、60分で済みます。製品形状が変わると金型を一式で入れ替えることになり、150分かかります。

2つ目は材質です。軟鋼板を流した後にステンレス鋼板を流す場合、金型と搬送部に残った鉄粉がステンレスの表面に付いてさびの原因になるため、念入りな清掃に90分が加わります。逆にステンレス鋼板から軟鋼板に戻すときは、さびの心配がないため30分の簡単な清掃で済みます。金型の一式交換と材質の切替が重なった場合が最長の240分です。

金型の吊り替えにはクレーンを使い、1回あたり40分かかります。この工場のクレーンは1基です。そのため、2台以上のプレス機で同時に金型を交換することはできません。

プレス機1台あたり月に20回ほど金型を交換するため、6台では月120回になります。吊り替えだけでクレーンが月80時間ふさがる計算になります。1日8時間で月20日動くとすれば、稼働時間の半分です。金型交換の順番待ちが起きるのは、このためです。

4. 生産管理で押さえる5つのポイント

(1) 欠品と納期遅れを最小にする

見込み生産品では、安全在庫が下限を割る前に補充できたかどうかが評価の基準になります。下限を割った回数を在庫Min違反回数と呼び、この工場の主な指標にしています。受注生産品については、約束した日に間に合わなかったオーダの数、つまり納期遅延件数を見ます。どちらも、生産順序をどう決めるかで大きく変わります。

(2) 段取り時間を最小にする

段取りをしている間、設備は製品を1個もつくっていません。それでも償却費は発生し、作業者の人件費もかかります。表のとおり、5工程の月間段取り時間は合計で480時間です。この時間をどこまで短くできるかが、工場の利益を左右します。

(3) ロットサイズを最適にする

1回の生産でまとめてつくる数量をロットサイズと呼びます。大きくすれば切替が減って段取り時間は短縮しますが、後ろに並んだ品番の補充が遅れます。小さくすれば在庫Min違反や納期遅れは減りますが、段取り時間が増加します。どちらを選んでも別の問題が出るため、品番ごとに適した数量を見つける必要があります。

(4) 工程を同期させ、製造リードタイムを短くする

材料が工場に入ってから製品として出ていくまでの時間を製造リードタイムと呼びます。ある品番のプレス成形が朝9時に終わっても、次のバリ取りの着手が午後5時なら、8時間は何も進んでいません。工程ごとに都合のよい順番で流していると、この待ち時間が積み上がり、製造リードタイムは増大します。前後の工程が同じペースで流れるように揃えることを同期化と呼びます。

(5) ボトルネックの稼働を高め、スループットを増やす

工場が1か月に出荷できる量は、いちばん能力に余裕のない工程で決まってしまいます。ほかの工程をどれだけ速くしても、その工程が処理できる量を超えて出荷することはできません。この工程をボトルネックと呼び、単位時間あたりに工場から出ていく製品の量をスループットと呼びます。

この工場のボトルネックはプレス成形で、根拠は2つあります。1つは、稼働時間のうち段取りに取られる割合が5工程で最も大きいことです。6台の稼働時間は合わせて月960時間あり、その4分の1にあたる240時間が段取りで消えています。もう1つは、クレーンが1基しかないため、6台あっても金型交換は同時に1台しかできず、台数が余力にならないことです。

能力とは別に、金額の面でもプレス成形の影響は大きくなります。設備単価が8,000円と5工程で最も高いため、同じ1時間止まっても失う金額が最大になります。第4回の試算では、この単価の高さが金額の差として表れます。

5. まとめ ― 利益を左右するのは、流す順番です

プレス部品の工場では、約400品番が5つの工程を流れていきます。どの品番の次にどの品番を流すかによって段取り時間が変わります。その結果、設備稼働率も上下します。ボトルネックのプレス成形が段取りで止まっていれば、ほかの工程で何をしてもスループットは増えません。

ここで挙げたポイントは、互いに影響し合っています。段取りの都合を工程ごとに優先すれば、前後の工程のペースがそろわず、製造リードタイムが伸びます。ロットサイズを大きくすれば段取り時間は短縮しますが、後ろの品番の補充が遅れ、欠品に近づきます。どれか1つを良くしようとすると、別の指標が悪くなる関係にあります。

次回は、この関係が現場でどんな困りごとになって現れるのかを、4つに整理します。あなたの工場では、先月の段取り時間が合計で何時間だったか、すぐに答えられますか?

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