【電線のAI生産スケジューリング 2】課題 ~ 押出工程の段取り時間が利益を削る理由

2026.09.28A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

前回は、工程の並びと、ボトルネックがどこにあるかを押さえました。今回はその工場で実際に何が起きているのかを、4つの課題に整理します。解決策は次回、金額は第4回で扱います。

想定する工場

今回も、前回と同じ工場を例にとります。6工程・設備48台、品番数3,000、稼働は2交替。ボトルネックは絶縁押出工程で、計画をつくる担当者は3名です。段取りの削減効果を見る対象は、機械の切替がある伸線・撚線・絶縁押出・集合・シース押出の5工程 (合計40台) とします。

なぜ悪循環が起きるのか

どの工場でも、納期を守ることは最優先の方針です。ところが品番数が多く、注文が細かく変わる工場でこれを人手だけで守ろうとすると、次の4つが順番に起こります。しかも最後の結果が、また最初の原因になります。

  • 遅れそうな注文が見つかる → 現場に割り込みで頼む (督促)
  • 割り込みが入る → 押出機の樹脂と色の入れ替えが増え、段取り時間が伸びる
  • 段取り時間が伸びる → 作れる量が減り、また別の注文が遅れる
  • 遅れが怖くなる → 注文より多く、前倒しで作る → 在庫が増える

一つひとつの判断はどれも正しいのに、合わせると生産量が落ちてコストが増えます。原因は担当者の努力不足ではありません。何が起きているのかを、4つの課題に分けて見ていきます。

課題1 督促コストの増大

このままでは納期に間に合いそうにない。そう分かった時点で、営業や生産管理が現場に個別の依頼を入れます。督促が入るたびに、その日の作る順番は組み直しになります。

この工場では管理業務に月125時間が使われており、その多くが督促と、それに伴う調整の連絡です。さらに悪いのは、督促そのものが次の段取りを増やし、次の遅れを作る点です。納期遅延件数が増えるほど督促が増え、督促が増えるほど納期遅延件数が増えます。

課題2 在庫保有コストの増大

納期に遅れたくないという気持ちが強いと、注文された数量より多く、しかも必要な時期より前に作ってしまいます。電線では、一度にまとめて作る数量 (ロットサイズ) を大きくするほど切替が減るので、いま注文が入っていない分まで続けて作っておこう、という判断になりがちです。

その結果、伸線した素線、より合わせた導体、絶縁を終えた芯線が、行き先の決まらないままドラムに巻かれて工程の間にたまります。

電線の在庫は、金額が大きくなりがちです。銅そのものが高価なうえ、長いまま置いておくためです。在庫の金額が、1-2か月分の売上と同じくらいになることも珍しくありません。ここでは平均在庫額を4億円とします。

在庫は置いてあるだけで、保管場所の費用、資金の金利、規格変更で使えなくなるリスクを生みます。これを在庫保有コストと呼びます。在庫は「安心料」に見えますが、実際には毎月支払っている費用です。

課題3 段取り作業コストの増大

段取りが増えると、2種類のコストが同時にふくらみます。

  • 人のコスト: ダイスやボビンを替え、樹脂を入れ替える作業者の時間。押出ラインでは複数名が同時に担当します
  • 物のコスト: 色を替えるときに押し出して捨てる樹脂 (パージ材)、消耗するダイス、条件出しに使う材料

割り込みが増えれば、この2つがそのまま増えます。とくにパージ材は製品にならない樹脂なので、そのまま損失です。段取りは目に見える作業ですが、いくらかかったかを金額で集計している工場は多くありません。だから見過ごされます。

課題4 大ロットと小ロットのジレンマ

ロットサイズとは、同じ品番を一度にまとめて作る数量のことです。ここに、担当者を悩ませる選択があります。どちらを選んでも、別の問題が出てきます。

  • 大ロットにする → 切替が減って段取り時間は減るが、他の品番が長く待たされ、納期遅延件数が増える
  • 小ロットにする → 他の品番を待たせずに済むが、切替が増えて段取り時間が伸びる

3,000品番と40台の組み合わせで、この釣り合いを人が手作業で決めるのは無理があります。結果として、担当者ごとの経験に頼った判断になり、良い日と悪い日の差が大きくなります。

効率化で減らしたいもの

4つの課題は、現場では時間とコストの増加として表れます。増えているものを具体的に書き出すと、次の6つになります。第4回では、この6つをそのまま金額にして試算します。

減らしたいもの何が起きているか第4回のコストダウン項目
計画作成の残業担当者が毎月かけて計画をつくり、変更が入るたびに作り直している① 計画作成人件費
督促業務遅れそうな注文を追いかける連絡と調整に時間が取られている② 間接人件費
残業割り込みで段取りが増え、押出ラインの段取りを複数名で担当する時間が定時を超える③ 段取り作業費 (残業相当)
段取り時間色替えのたびにパージ材が出て、ダイスや条件出しの材料も消費される④ 段取り資材費
過剰在庫注文より多く、前倒しで作ってしまい、行き先の決まらないドラムが工程の間にたまる⑤ 在庫保有コスト
設備停止段取り時間中は、機械があっても製品を作れない⑥ 設備費 (機械の稼働回復)

今回は金額を出しません。まずは、どこにどれだけの時間が消えているかを並べるところまでです。

まとめ

4つの課題は別々に見えますが、原因はどれも同じで、作る順番の決め方にあります。だとすれば、打ち手も個別の改善ではなく、順番の決め方そのものになります。次回はその中身を見ます。

あなたの工場で、いちばん金額が大きいのは6つのうちどれだと思いますか。

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