【ギアのAI生産スケジューリング 4】ROI試算 ~ 五つの費目から戻る年間リターンを検算する
2026.07.07A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい先に結論 ―― 年間およそ3,122万円が戻る
基礎知識、課題、解決策とたどってきて、第4回の今回はいよいよ金額の話です。結論からお伝えします。これまでの悩みを最適化AIで小さくすると、年間およそ3,122万円が戻ってくる計算になります。内訳は、計画作成、段取りまわり(作業費と、資材・電力)、在庫の圧縮、そして設備の稼働回復です。金額の根拠は、誰でも検算できる形でこのあと確かめます。

試算の前提 ―― あなたの工場の数字
| 項目 | 値 |
| 対象設備 | 旋削5台・歯切り7台・研削6台(計18台) |
| 使用時間単価(止まると失う価値) | 旋削6,500・歯切り9,800・研削9,200円/時 |
| 作業者 / 計画担当者 | 20人 / 2人 |
| 品番数 | 280品番 |
| 1台あたり段取り時間 | 40時間/月・台 |
| 計画作成時間 | 50時間/月・人 |
| 段取り由来の設備停止 | 40時間/月・台(段取り時間と同じ。削減すれば同時に回復) |
| 平均在庫額 | 2.0億円(工程途中の仕掛を含む。★仮定値) |
年間リターン ―― 五つの費目
まず全体像です。リターンは五つの費目に分かれます。それぞれ計算式と年間リターンを示すので、一つずつ検算できます。段取り削減時間と計画削減時間はこの試算の内訳であり、続く章で求め方を示します。計算の中身が気になる「段取り削減時間」と「⑤設備停止損失」は、そのあと内訳として詳しく見ていきます。
| 項目 | 計算式 | 年間リターン |
| ① 計画作成人件費 | 計画削減50h × 3,000円 × 12 | 約180万円 |
| ② 段取り人件費(残業) | 段取り削減144h × 2,800円 × 12 | 約484万円 |
| ③ 段取りコスト(資材・電力) | 段取り削減144h × 1,200円 × 12 | 約207万円 |
| ④ 在庫保有コスト | 2.0億 × 25% × 15% | 約750万円 |
| ⑤ 設備停止損失 | 工程別に計算(次の表で内訳) | 約1,500万円 |
| 合計 | ―――――― | 約3,122万円 |
内訳その1:削減できる時間 ―― 段取り144時間と計画50時間
費目の土台になるのは、最適化で減らせる時間です。②段取り人件費・③段取りコスト・⑤設備停止損失は「段取り削減時間」、①計画作成人件費は「計画削減時間」が土台になります。さきほどの五費目表で使った段取り144時間・計画50時間が、どう求めた数字かをここで示します。
段取り削減時間は、主力3工程それぞれで「台数 × 段取り時間40 × 削減率20%」を計算して足し合わせます。
| 工程 | 計算式(台数 × 40h × 20%) | 結果 |
| 旋削(5台) | 5 × 40 × 0.20 | 40.0時間/月 |
| 歯切り(7台) | 7 × 40 × 0.20 | 56.0時間/月 |
| 研削(6台) | 6 × 40 × 0.20 | 48.0時間/月 |
| 段取り削減時間 合計 | 40.0 + 56.0 + 48.0 | 144.0時間/月 |
計画削減時間は、計画担当者の作業から求めます。標準化と自動化で、計画作成のおよそ半分を減らせると見ています。
| 対象 | 計算式(担当者 × 作成時間 × 削減率) | 結果 |
| 計画削減時間 | 計画担当者2 × 計画作成50 × 削減率50% | 50時間/月 |
歯切りの56時間がいちばん大きいのは、台数が7台と多いからです。歯切りはこの工場の最大の律速工程で、しかも止まる損失(単価)も高い。この「時間の多さ」と「単価の高さ」の両方が、次の⑤設備停止損失で効いてきます。
内訳その2:⑤設備停止損失 ―― 工程ごとに単価が違うので分けて計算
五費目のうち⑤設備停止損失だけは、工程ごとに時間単価が違います。そこで、さきほどの工程別の削減時間に、それぞれの単価を掛けて足し合わせます。これが五費目表の⑤「約1,500万円」の中身です。
| 工程(⑤設備停止損失の内訳) | 計算式(削減h × 工程単価 × 12) | 年間リターン |
| 旋削(単価6,500円) | 40.0h × 6,500円 × 12 | 約312万円 |
| 歯切り(単価9,800円) | 56.0h × 9,800円 × 12 | 約659万円 |
| 研削(単価9,200円) | 48.0h × 9,200円 × 12 | 約530万円 |
| ⑤設備停止損失 合計 | 312 + 659 + 530 | 約1,500万円 |
歯切りの停止損失が659万円と最も大きいのは、削減時間(56時間)と単価(9,800円)がともに高いからです。係数で重みを足さなくても、歯切りの値打ちは実際の単価できちんと表れます。
この数字の読み方 ―― 「本当に減る額」を見極める
五つの費目は、堅さが違います。③の資材・電力は、使わなければそのぶん出ていかない変動費で、最も堅い現金の節約です。②の残業と①の計画人件費も、減れば支払いが減る変動費に近い性質です。④の在庫保有コストの削減は、寝ていた資金と保管費が軽くなる効果で、これも実感しやすいリターンです。
一方、⑤の設備停止損失の削減は固定費の性質を持ちます。機械が動けるようになっても、それだけで現金が増えるわけではありません。空いた能力で受注をこなして初めて利益になります。だからこそ⑤は「機会の価値」として、堅い費目とは分けて受け止めるのが誠実な見方です。
削減の正体 ―― 「作業者1名・設備1台分」が浮き、もっと作れる
この効果は、時間で見るとはっきりします。減らせる段取りは月144時間。これは作業者ほぼ一人分のひと月の働きにあたります。この時間は、二つの余力として戻ってきます。ひとつは人の余力で、段取りに追われて消えていた時間が、作業者およそ1名分の手として生産に戻ります。もうひとつは設備の余力で、止まっていた機械がよみがえり、ボトルネックおよそ1台分が新たに使えるようになります。浮いた手と設備の余力は、消えるのではなく、価値を生む仕事へ向け直せます。
そして、この余力がいちばん効いてくるのは、受注が増えたときです。浮いた人手と設備を新しい注文に回せるので、同じ人員・設備のままで生産量(スループット)を増やせます。残業や外注に頼らずに済み、あわてて人を増やしたり機械を買い足したりせずに対応できます。最適なスケジュールは督促や納期遅れに伴う追加コストも減らすため、忙しくなるほど、この差は大きく広がります。
まとめ ―― 数字は、議論を動かす
年間およそ3,122万円。計画、段取り、在庫、そして設備。歯車工場の利益を削っていた「動いていない時間」と「寝ていた資金」を、検算できる数字に変えました。
あなたの工場の段取り時間と設備停止を実際に測ったら、この式はいくらを返すでしょうか。次回は、その第一歩を具体的にお伝えします。

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