【機械加工工程のAI生産スケジューリング 4】ROI試算 ~ 段取り・設備稼働の改善効果を、自社の数字で試算する

2026.06.29A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

前回、生産スケジューラという解決策の方向性が見えました。けれど経営の現場では、必ずこう問われます。「で、いくら戻るのか」。第4回は、その問いに数字で答えます。投資額の話には踏み込まず、得られるリターン(Return)だけに絞って、ひとつずつ積み上げて確かめていきましょう。

全5回(①基礎知識 → ②課題 → ③解決策 → ④効果 → ⑤納得して選ぶ)の第4回。第2回で見た段取り・残業・督促の悩みが、最適化AIでいくらのリターンに変わるのか。ここがシリーズの山場です。

先に結論 ―― 年間およそ2,000万円が戻る

細かい計算に入る前に、着地点を示します。本コラムの試算では、最適化AIの導入で年間およそ2,016万円のリターンが見込めます。内訳は、段取りまわり(作業費・資材電力)、計画作成、設備の稼働回復の四項目。これから、この数字がどこから来るのかを、誰でも検算できる形で確かめていきます。

試算の前提 ―― あなたの工場の数字

試算は、前回までに描いてきたNC旋盤加工メーカーの数字を使います。まず、出発点となる前提を確認しておきましょう。

項目前提条件
対象設備NC旋盤 40台
機械の使用時間単価4,000円/時(止まると失う1時間あたりの価値)
作業者 / 計画担当者40人 / 2人
扱う品番数500品番
1台あたりの段取り時間20時間/月(40台で 800時間/月)
計画作成時間100時間/月・人(2人で 200時間/月)

計算の型 ―― すべて同じ式で出す

リターンの出し方は、どの項目も同じです。削減できる時間に、その1時間の価値(単価)を掛け、12か月分にする。式にすると、こうなります。

年間リターン = 月の削減時間 × 単価 × 12

そして「月の削減時間」は、次の二つで決まります。段取りは40台ぶん、計画は担当者2人ぶんをまとめます。

段取り削減時間 = 設備台数 × 段取り時間 × 削減率

計画削減時間 = 計画担当者数 × 計画作成時間 × 削減率

前提の数字を入れると、段取りは 40台×20時間×20% = 月160時間、計画は 2人×100時間×50% = 月100時間。この削減時間に、項目ごとの単価を掛けて12倍するだけです。

四つの効果を、ひとつの表で

段取りの削減は、人の時間・資材や電力・止まっていた機械、という三つの価値を同時に生みます。これに計画作成を加えた四項目を、同じ式で並べます。

項目削減時間/月単価/時計算(×12)年間リターン
① 段取り作業費(残業相当)160h3,000円160×3,000×12576万円
② 段取りコスト(資材・電力)160h1,000円160×1,000×12192万円
③ 計画作成(担当者の人件費)100h4,000円100×4,000×12480万円
④ 設備費(機械の稼働回復)160h4,000円160×4,000×12768万円
合計2,016万円

年間削減額合計 約 2,016万円/年

※ ①と②は同じ160時間でも単価が違います。人件費(残業)と資材・電力という性質の違う費目を分けて数えることで、二重計上を避けています。④は止まっていた機械が動けるようになった価値で、①の人の時間とは別に数えます。

この数字の読み方 ―― 「本当に減る額」を見極める

ただし、4つすべてが同じ重みではありません。②段取りコスト(資材・電力)は変動費で、使った分だけ確実に現金が減る、最も堅い効果です。①段取り作業費と③計画作成の残業代も変動費的で、残業が減れば割増人件費が実際に下がります。ここまでは、財布から出ていくお金が確かに減るリターンです。

一方、④設備費は固定費。機械が動けるようになった価値であって、動けるようになっただけでは現金は増えません。空いた時間で新たに受注して初めて、利益に変わります。変動費分(①②③)を堅い効果、固定費分(④)を伸びしろと捉えるのが、誠実な読み方です。

削減の正体 ―― 「作業者1名・設備1台分」が浮く

金額の意味も押さえましょう。段取り作業の削減は月160時間――これは作業者およそ1名分の働きに相当します。機械の稼働回復も月160時間で、旋盤およそ1台分の稼働に当たります。つまりこの改善は、作業者1名・設備1台分の余力を生み出すのと同じことなのです。増員や増設を考える前に、まず取り戻せる余力がここにあります。

需要が増えたとき ―― 「同じ人と設備で、もっと作れる」

この余力は、受注が伸びる局面で力を発揮します。最適化AIは、同じ人員・設備のままでも、こなせる生産高(スループット)を引き上げる力になります。残業を増やさず、外注に頼らず、人を増やさず、機械を買い足さずに、需要の伸びを受け止められる――増産を、増員や設備投資ではなく計画の質で吸収するのです。

これは二重の意味で効きます。ひとつは、増えがちな残業費・外注費を抑えられること。もうひとつは、本来なら必要になる人員の増員や設備の増設をしなくて済むことです。需要が伸びるほど、この「増やさずに作れる」力が、そのまま利益の差になって表れます。

さらに、いま納期を守るために払っている見えない代償も忘れてはいけません。遅れを取り戻す緊急の残業、現場を追いかける督促の工数、間に合わせの特急輸送費。督促はかえって現場の段取りを乱し、効率を落とします。最適な生産スケジュールで納期が安定すれば、こうした追加コストの多くも不要になります。

まとめ ―― 数字は、議論を動かす

感覚で語られてきた損失を、誰でも検算できる三段階の式に乗せれば、年間およそ2,000万円という具体的な数字になりました。大切なのは、この数字を自社の前提で置き換え、変動費と固定費を見極めて、堅く語れるようにすることです。

あなたの工場の40台は、いま月に何時間、段取りで止まっていますか。その時間に単価を掛けたとき、その金額は投資の判断を後押しするものになっているでしょうか。

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