【プレス加工工程のAI生産スケジューリング 4】ROI試算 ~ Returnを自社の数字に置き換える、投資対効果の考え方

2026.06.29A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

解決策の方向性が見えてくると、誰もが思うことがあります。「では、自社ではいくらの効果が見込めるのか」。投資判断の場面で欠かせないのが、ROI、すなわち投資対効果の試算です。今回は、生産スケジューラを導入した場合の効果すなわちリターンの側面に絞って、自社の数字に置き換える考え方を整理します。

ROIとは、投じた費用に対してどれだけの効果が返ってくるかを示す指標です。本来は投資額と効果の両方を見比べますが、まずは効果すなわちリターンの全体像をつかむことが出発点になります。リターンが見えてはじめて、その投資が割に合うかどうかを判断できるからです。ここでは、リターンを項目ごとに分解し、一つずつ金額に置き換えていきます。

試算の前提となる自社の条件

想定する工場は、プレス機20台、作業者20人、品番300、金型200という規模です。単価は、段取り中に発生する材料ロス・試打ち費・電力の合計を時間あたり1,000円、段取り作業の残業単価を1時間あたり3,000円、計画作成の人件費単価を1時間あたり4,000円、納期遅延コストを1件あたり20,000円とします。設備の停止ロスは、プレス機の使用時間単価1時間5,000円をもとに見積もります。前提となる現状値は、段取り停止が月400時間、段取り作業が月400時間、計画作成が月120時間、納期遅延が月60件です。ここに、段取り時間30%減、段取り作業時間30%減、設備停止時間の回復、計画作成時間80%減、納期遅延80%減という改善を当てはめて、リターンを見積もっていきます。

前提条件
プレス機 / 使用時間単価20台 / 5,000円/時
作業者数 / 品番 / 金型20人 / 300 / 200
段取り中の材料ロス等1,000円/時(変動費)
段取り作業の残業単価3,000円/時
計画作成の人件費単価4,000円/時
納期遅延コスト20,000円/件

Before/Afterで見るリターン

改善の前後を金額に置き換えると、次のようになります。あくまで一例ですが、自社の数字を入れ替えれば、同じ要領で試算が可能です。

項目BeforeAfter削減時間単価/時年間リターン
段取り時間(材料ロス等)月400時間月280時間月120時間1,000円約 144万円
段取り作業時間(残業)月400時間月280時間月120時間3,000円約 432万円
設備停止ロス(稼働回復)停止400時間/月回復220時間/月月220時間5,000円約 1,320万円
計画作成工数月120時間月24時間月96時間4,000円約 461万円
納期遅延コスト月60件月12件月48件減20,000円/件約 1,152万円

段取りと作業時間の削減という確かなリターン

まず段取り時間削減です。20台のプレス機が月400時間にわたり段取りで止まっていたとして、これが30%減ると月120時間が浮きます。ここで数えるのは段取り中に実際に発生する材料ロス・試打ち費・電力だけで、時間あたり1,000円と見積もると、月およそ12万円、年間で約144万円。これは生産量に応じて増減する変動費なので、そのまま支出減につながります。さらに段取り作業時間削減として、人が段取りに費やす月400時間が30%、120時間減れば、残業単価3,000円で月約36万円、年間約432万円のリターンになります。

最大のリターンは納期遅延の削減

金額として大きいのが納期遅延削減です。月60件の遅延が80%減って12件になると、48件分の遅延コストが消えます。1件20,000円で換算すると、月およそ96万円、年間ではおよそ1,152万円にのぼります。納期を守れること自体が、これほどの金額価値を持つのです。計画作成時間も、月120時間が80%減って96時間が浮き、人件費単価4,000円で見れば月約38万円、年間約461万円の工数削減になります。

納期遅延が呼び込む、見えない追加コスト

ここで「1件20,000円」という納期遅延コストの中身を考えてみましょう。納期に間に合わないと分かったとき、現場ではさまざまな追加費用が発生します。間に合わせるための特急対応の残業や休日出勤、輸送を間に合わせる特急便・チャーター便の割増運賃、社内外への連絡や調整に取られる事務工数。さらに、相手先のラインを止めてしまえばペナルティや値引き要求につながることもあります。そして何より怖いのは、金額に表れにくい信用の低下です。一度「あの会社は遅れる」と思われれば、次の受注が遠のく。納期遅延の本当のコストは、目に見える割増費用の何倍にもなりうるのです。だからこそ、納期遅延を80%減らせる価値は、単価以上の重みを持ちます。

納期遅延で発生する追加コスト内容
特急対応の残業・休日出勤間に合わせるための割増人件費
特急便・チャーター便輸送の割増運賃
事務工数連絡・調整・謝罪にかかる時間
ペナルティ・値引き客先ライン停止による補償
信用の低下次の受注が遠のく(金額に出にくい)

設備停止ロスの金額は、こう求める

少し分かりにくい設備停止時間のロスは、回復できる稼働時間で考えると明快です。現状、段取りなどでプレス機が月400時間止まっているとします。生産スケジューラでこの段取り停止が30%、つまり月120時間減り、機械が動けるようになります。さらに割付けや順序の最適化によって、待ちやムダがなくなり、月およそ100時間ぶんの稼働率がうわ乗せで改善します。あわせて月220時間が新たに動く計算です。この時間をプレス機の使用時間単価1時間5,000円で評価すると、「220時間×5,000円×12か月=約1,320万円」。止まっていた設備が動いて生み出す価値であり、新しい機械を買い増さずに、いまある設備でこれだけのリターンを取り戻せるのです。

変動費か固定費かで、効果の意味が変わる

ここで一つ、経営者として押さえておきたい視点があります。同じ「削減」でも、その費目が変動費固定費かで意味が変わるという点です。エネルギー費や資材費のように、生産量に応じて増減する変動費の削減は、そのまま実際の支出減につながります。一方で、正社員の人件費のように、すぐには増減しない固定費の場合、削減した時間が即座に現金の支出減になるとは限りません。試算した金額をそのまま鵜呑みにせず、自社の費目がどちらの性質を持つかを見極めることが、地に足のついた投資判断につながります。

費目の性質該当する項目削減の効き方
変動費段取りの材料ロス・電力そのまま実際の支出減になる
固定費正社員の人件費・設備費即現金減ではなく、余力・機会価値として効く

効果が本当に効いてくるのは、需要が増えたとき

では固定費分の削減は意味がないのかというと、決してそうではありません。むしろ効果が大きく効いてくるのは、需要が増えたときです。受注が増えても、空いた時間で多くを作れれば、本来必要だった残業コスト外注コストを増やさずに済みます。さらに生産能力に余裕が生まれることで、増産のための新たな設備投資を先送り、あるいは回避できる可能性もあります。つまり生産スケジューラによる効率化は、今のコストを下げるだけでなく、未来の成長を支える余力そのものを生み出すのです。

需要増大時に避けられるコスト内容
残業コスト増産を残業で賄う必要が減る
外注コスト社外に出さず内製で対応できる
設備投資コスト機械の買い増しを先送り・回避できる

自社の数字で、試算をわが事にする

ここで挙げた金額は、あくまで一つのモデルケースにすぎません。大切なのは、同じ枠組みに自社の数字を当てはめてみることです。プレス機の台数、使用時間単価、月あたりの段取り時間や残業時間、納期遅延の件数。これらを実際の値に置き換えれば、自社にとってのリターンが見えてきます。仮に改善率が想定より小さかったとしても、これだけの項目が積み上がれば、年間のリターンは決して無視できない規模になるはずです。数字で語れるようになれば、投資の議論は感覚論から脱し、経営判断の俎上にのせられます。あなたの工場の台数、単価、件数を当てはめたとき、年間でどれだけのリターンが戻ってくるでしょうか。一度、電卓を手に試算してみてはいかがでしょうか。

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