【電動アクチュエータのAI生産スケジューリング 2】課題 ~ 残業と督促が止まらない、納期厳守の裏で膨らむ在庫とコストの正体

2026.07.08A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

前回、電動アクチュエータづくりは「価値を生んでいない時間」との戦いだとお話ししました。第2回では、その戦いの最前線にいる工場が、日々どんな課題に頭を悩ませているのかを覗いてみます。先に申し上げておくと、この回では解決策は語りません。まずは悩みを、悩みのまま、丁寧に見つめることから始めましょう。

全5回(①基礎知識 → ②課題 → ③解決策 → ④ROI試算 → ⑤失敗しない導入)のうち、ここは第2回。ここで挙げる段取りや在庫の悩みが、第4回でいったい年間いくらの損失なのかを、後ほど具体的な金額で試算します。まずはその「損失の正体」を押さえましょう。

想定する工場 ―― ある電動アクチュエータメーカー

話を具体的にするため、一つの工場を思い描きます。自動車向けを中心に、多品種の電動アクチュエータを量産する、よくある中堅メーカーです。以降の回でも、この工場の数字を使って話を進めます。

項目内容
主力製品自動車向け電動アクチュエータ(シート・ミラー・ドア・ブレーキ等)
生産形態多品種・量産・受注連動
主な設備NC旋盤・MC・複合加工機・組立ライン 32台(使用時間単価 5,200円/時)
作業者32人(一人が複数台を受け持つ)
計画担当者4人
扱う品番数620品番(車種・グレード・仕向け地で枝分かれ)
平均在庫金額1.8億円(部品・仕掛品・完成品)
納入条件量産・短納期・系列からの内示変動が多い

注目したいのは、32台の設備に620もの品番を流している点です。一人が複数台を受け持つため、ある一台の段取りが長引くと、その作業者が見るべき他の設備まで手が回らなくなります。620品番を32台にどう割り振り、どんな順番で流すか――台数・人数・品番数が複雑に絡み合い、現場の悩みの土台になっています。

課題1 ―― 納期厳守の裏で、残業と督促が膨らむ

電動アクチュエータづくりの現場では、納期を守るのは当たり前。守れて褒められることはなく、遅れれば叱られる世界です。とりわけ自動車向けは、組立メーカーのラインを止めるわけにはいきません。そのプレッシャーのなかで、間に合わせるために残業が増えます。さらに、進捗が読めないと管理者は現場に「あれはどうなった」と督促をかけ続けます。

ところが督促は、かければかけるほど現場の段取りを乱し、かえって生産効率を悪化させるという皮肉を抱えています。督促のための情報集めや会議も、それ自体が見えないコストです。納期を守るために払っている代償が、残業代と督促業務として静かに積み上がっているのです。

課題2 ―― 納期を守るための「在庫」が、利益を圧迫する

納期遅れを避けるために、現場はもう一つの備えを置きます。時間の余裕(タイムバッファ)と、在庫の余裕(在庫バッファ)です。早めに着手し、多めに作り置きしておけば、急な内示変動や遅れにも慌てずに済む――この安心感は、確かに現場を助けます。

けれど、その備えが過剰になると、今度は在庫そのものがコストに変わります。作り置いた部品や仕掛品、完成品は、置き場所を取り、管理の手間を生み、資金を寝かせます。とりわけ電動アクチュエータは部品点数が多く、車種ごとに専用部品が枝分かれするため、在庫は膨らみやすい。売れるまで利益にならないどころか、モデルチェンジや設計変更があれば、まるごと無駄になりかねません。納期を守ろうとするほど在庫が膨らみ、在庫を抱えるほど利益が圧迫される――ここにも、見えにくい綱引きがあります。

課題3 ―― 段取り替えのたびに、設備が止まる

品番が変われば、つかみ爪(加工物をつかんで固定する爪)を交換し、刃物を入れ替え、プログラムを呼び出し、最初の一個を測って合わせ込む。組立ラインなら治具を載せ替える。この段取り替えの間、たとえ試し削りで主軸が回っていても、出荷できる製品は一個も生まれていません。付加価値を生む正規の生産は止まっているのです。設備が価値を生まない時間は、そのまま使用時間単価分の損失になります。1台5,200円/時の設備が32台。同時に何台もが段取りに入れば、損失は一気に膨らみます。

課題4 ―― 「まとめれば効率的」の落とし穴

ならば段取りを減らせばよい。同じ品目をまとめて大ロットで流せば、段取り替えの頻度は下がり、設備の稼働率は上がります。ところが、ここにジレンマが潜んでいます。

まとめて作るほど、後回しにされた品番の納期遅延件数が増えるのです。逆に、納期遅れをなくそうと注文ごとに小ロットで細かく流せば、今度は段取り替えの時間が一気に増えてしまう。段取りを減らせば納期が遅れ、納期を守れば段取りが増える――この綱引きこそ、多品種量産の電動アクチュエータづくりが抱える根の深い悩みです。620もの品番を32台にどう割り振り、どんな順番で流すか。組み合わせは天文学的で、人の勘だけで最適を見つけるのは至難の業です。

効率化が生む「コストダウンの願望」

これらの課題の裏側には、「こうなったらいいのに」という願望があります。効率化が実現すれば、どんなコストダウンにつながるのか。願望を整理してみましょう。

効率化の願望期待できるコストダウンの中身
段取り時間を減らしたい段取り中の材料ロス・試し削り・電力など
残業時間を減らしたい間に合わせのための割増人件費(残業代)
過剰な在庫を減らしたい部品・仕掛品・完成品の保管費・管理費・寝かせた資金
督促業務を減らしたい進捗確認・催促・会議に費やす管理工数
計画作成の残業を減らしたい計画担当者が計画づくりに費やす残業代
設備の停止時間を減らしたい止まっている設備の使用時間単価分の損失

いずれも「あったらいいな」で終わらせるには惜しい、確かな利益の源泉です。けれど、人の手と勘だけでこれらを同時に追いかけるのは、容易ではありません。

まとめ ―― 悩みの正体を見つめて

段取りと納期のジレンマ、納期を守るための在庫の重み、32台を32人で回す人と設備のやりくり、そして積み上がる見えないコスト。これらは特定の工場だけの問題ではなく、多品種量産の電動アクチュエータづくりに共通する構造的な悩みです。とりわけ車種ごとに枝分かれする在庫の重さは、この製品ならではの悩みと言えるでしょう。

あなたの工場では、段取りを優先していますか、それとも納期を優先していますか。そして、その判断はいったい誰の、どんな根拠で決まっているでしょうか。

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