【電線のAI生産スケジューリング 4】ROI試算 ~ 6つのコストダウン項目で金額にする
2026.09.28A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい課題と解決策が出そろいました。残るのは、年間リターン金額がいくらになるかです。第2回で並べた6つの「減らしたいもの」を、第3回の解決策と結びつけて金額にします。

1. 先に結論 ―― 年間リターン金額はおよそ 7,161万円
第1回で想定した工場 (6工程・設備48台・品番数3,000・2交替) を例に計算します。段取り時間を20%、計画作成時間を50%、管理時間を40%、在庫を15%減らせたとして、年間リターン金額を計算しました。
効果が表れる場所は、大きく分けて4つあります。
- 計画と督促 ―― 計画をつくる時間と、遅れを追いかける時間が減る
- 段取り ―― 段取りを担当する人の時間と、パージ材などの資材が減る
- 在庫 ―― 保管と金利の負担が減る
- 設備 ―― 段取りで止まっていた分だけ、ラインが製品を作れる時間が増える
年間リターン金額の合計は、およそ7,161万円です。この数字の組み立て方を、電卓で追える形で示します。
2. 試算の前提 ―― あなたの工場の数字
まず、工場の実態を表す数字です。どれも現場で数えられるものだけにしました。
| 前提 | 値 |
| 対象設備 (合計台数) | 40台 (伸線 10 ・ 撚線 10 ・ 絶縁押出 10 ・ 集合 5 ・ シース押出 5) |
| 稼働前提 | 2交替 (1台あたり月320時間) |
| 設備の使用単価 | 伸線 6,000 ・ 撚線 3,000 ・ 絶縁押出 9,500 ・ 集合 3,000 ・ シース押出 12,000 (円/時間) |
| 品番数 | 3,000品番 |
| 段取り時間 (工程別) | 伸線 30 ・ 撚線 30 ・ 絶縁押出 60 ・ 集合 30 ・ シース押出 50 (時間/月・台) |
| 段取りの担当人数 | 伸線 1 ・ 撚線 1 ・ 絶縁押出 2 ・ 集合 1.5 ・ シース押出 4 (名) |
| 計画担当者数 | 3名 |
| 計画作成時間 | 70 時間/月・人 |
| 管理時間 | 125 時間/月 (督促対応を含む) |
| 平均在庫額 | 4億円 |
検査・巻取 (8台) は能力に余裕があり、段取りを削っても生産量が増えないため、対象から外しています。
次に、削減率とコスト率・単価の前提です。上の数字にこれらを掛けて、6つのコストダウン項目を計算します。
| 削減率・コスト率・単価 | 値 |
| 段取り削減率 | 20% |
| 計画時間削減率 | 50% |
| 管理時間削減率 | 40% |
| 在庫圧縮率 | 15% |
| 保管コスト率 (年) | 15% |
| 計画人件費単価 | 4,500 円/時間 |
| 管理人件費単価 | 3,200 円/時間 |
| 段取り作業単価 | 3,000 円/人時 (人数×時間で数えるための単価) |
| 段取り資材単価 | 1,250 円/時間 (パージ材・ダイス・条件出しの材料) |
削減率は控えめな水準に置いています。ここを自分の工場の数字に差し替えれば、同じ式でそのまま試算できます。
3. 年間リターン ―― 6つのコストダウン項目
まず6つのコストダウン項目と金額を一覧にします。式の中の削減時間 (段取り320時間/月と605人時/月、計画105時間/月、管理50時間/月) の求め方は、次の章で分けて説明します。
| コストダウン項目 | 計算式 | 年間 |
| ① 計画作成人件費 | 計画削減時間 105時間/月 × 4,500円 × 12 | 567 万円 |
| ② 間接人件費 | 管理時間削減 50時間/月 × 3,200円 × 12 | 192 万円 |
| ③ 段取り作業費 (残業相当) | 段取り削減人時 605人時/月 × 3,000円 × 12 | 2,178 万円 |
| ④ 段取り資材費 | 段取り削減時間 320時間/月 × 1,250円 × 12 | 480 万円 |
| ⑤ 在庫保有コスト | 平均在庫額 4億円 × 在庫圧縮率 15% × 保管コスト率 15% | 900 万円 |
| ⑥ 設備費 (機械の稼働回復) | 工程ごとに単価が違うため工程別に計算 (5章の表で内訳) | 2,844 万円 |
| 合計 | ① + ② + ③ + ④ + ⑤ + ⑥ | 7,161 万円 |
4. 内訳その1: 削減できる時間 ―― 段取りと計画
コストダウン項目の式で使った削減時間は、次のように求めています。
段取り削減時間 ―― 設備の時間と人の時間を分けて積み上げる
設備の時間は「台数 × 段取り時間 × 段取り削減率」、人の時間はそれに担当人数を掛けた人時です。
| 工程 | 台数 | 段取り時間 (時間/月・台) | 削減率 | 削減時間 (時間/月) | 担当 人数 | 削減人時 (人時/月) |
| 伸線 | 10台 | 30 | 20% | 60 | 1 | 60 |
| 撚線 | 10台 | 30 | 20% | 60 | 1 | 60 |
| 絶縁押出 | 10台 | 60 | 20% | 120 | 2 | 240 |
| 集合 | 5台 | 30 | 20% | 30 | 1.5 | 45 |
| シース押出 | 5台 | 50 | 20% | 50 | 4 | 200 |
| 合計 | 40台 | ― | ― | 320 | ― | 605 |
絶縁押出が設備の時間でも人の時間でも最大になります。パージのために段取り時間が5工程のなかで最長 (60時間/月・台) であり、台数も10台と多いためです。シース押出は台数5台でも、4名が担当するため人時では200人時/月と大きくなります。
計画削減時間 ―― 担当者の人数から求める
| 求めるもの | 計算 | 結果 |
| 計画削減時間 (計画担当者数 × 計画作成時間 × 削減率) | 3名 × 70時間 × 50% | 105 時間/月 |
| 管理時間削減 (管理時間 × 削減率) | 125時間 × 40% | 50 時間/月 |
計画作成が半分になるのは、毎月ゼロから組み直していた作業が、条件を入れて計算させる作業に変わるためです。管理時間の減少は、督促そのものが減ることによるものです。
5. 内訳その2: ⑥設備費 ―― 工程ごとに単価が違うので分けて計算
機械が段取りで止まっている間、その設備は製品を作れません。止まらずに済んだ時間を、工程ごとの時間単価で評価します。
| 工程 | 削減時間 (時間/月) | 時間単価 | 年間 |
| 伸線 | 60 | 6,000 円/時間 | 432 万円 |
| 撚線 | 60 | 3,000 円/時間 | 216 万円 |
| 絶縁押出 | 120 | 9,500 円/時間 | 1,368 万円 |
| 集合 | 30 | 3,000 円/時間 | 108 万円 |
| シース押出 | 50 | 12,000 円/時間 | 720 万円 |
| ⑥ 合計 | 320 | ― | 2,844 万円 |
合計は3章の⑥と同じ2,844万円です。同じ320時間でも、どの工程で減らせたかによって金額は変わります。絶縁押出とシース押出は時間単価が高いため、この2工程で減らすほうが値打ちが大きい、ということです。
6. この数字の読み方 ―― 「本当に減る額」を見極める
合計7,161万円を、そのまま利益が増える額として説明すると、社内で反論が出ます。6つの項目は、お金の減り方で3つに分類されるからです。実際に支払いが減る変動費、支払いは変わらないが人の時間が空く固定費、そして作れる量が増える機会費用の3つです。
| 性質 | 該当項目 | 意味 | 小計 |
| 変動費 | ③ ④ ⑤ | 減らせば支払いが実際に少なくなる。残業代、パージ材などの資材、保管費と金利 | 3,558 万円 |
| 固定費 (人件費) | ① ② | 給与総額は当月すぐには変わらない。空いた時間を別の仕事に振り向けて初めて価値になる | 759 万円 |
| 機会費用 | ⑥ | 支払いは減らないが、作れる量が増える。注文があれば売上と利益になる | 2,844 万円 |
| 合計 | ① – ⑥ | 3つの性質を合わせた効果 | 7,161 万円 |
この3つのうち、現金の支払いが減るのは変動費の3,558万円だけです。ただし③のうち、段取りの担当が定時内に収まっている分は、その場で支払いが減るわけではありません。残業として払っている部分だけが現金の削減になります。残りの3,603万円は「使える時間と作れる量が増える」という形の効果です。この区別をつけて説明したほうが、数字は信用されます。
7. 削減の中身 ―― 作業者およそ4.7名分と設備1台分が浮く
ここまでは金額で見てきました。同じ効果を時間で数え直すと、規模がもっとつかみやすくなります。浮く時間は、設備の時間と人の時間に分けて数えます。
- 設備の時間: 段取り 320時間/月。2交替では1台が月320時間動くので、ちょうど設備1台分にあたります
- 人の時間: 段取りの担当 605人時/月 + 計画 105人時/月 + 管理 50人時/月 = 760人時/月 (計画と管理は1人が働く時間なので、そのまま人時として足せます)
1人の月間労働時間を160時間とすると、760人時/月は作業者およそ4.7名分になります。人の時間のほうが大きく出るのは、押出ラインの段取りを複数名で担当しているからです。これを人員削減の数字と考えるのではなく、新しい品番の立ち上げや現場の改善に回せる時間と考えるのが実務的です。
設備の側では、とくに絶縁押出で120時間/月の稼働時間が増え、ボトルネックがその分だけ多く作れるようになります。設備を買い増さずに生産能力が増える、ということです。
8. まとめ ―― 数字は、議論を動かす
今回示したのは、6つのコストダウン項目と、変動費・固定費・機会費用という3つの見方です。前提の数字を自分の工場の実測値に差し替えれば、同じ式で自社版の試算になります。
大切なのは、計算の精密さより、関係者が同じ数字を見て話せることです。段取り時間が何時間あり、それを何人で担当し、それが何円にあたるのか。この3つを共有できれば、「無駄が多い気がする」といった印象ではなく、金額の大小で優先順位を決められます。次回は、この数字を測ることから始める導入の進め方を扱います。
あなたの工場では、1回の段取りを何人で担当していますか。


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