【金属部品・プレス部品のAI生産スケジューリング 4】ROI試算 ~ 年間Return値2,511万円の内訳を検算する

2026.09.30A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

全5回の4回目です。前回は、4つの要件をまとめて1回で計算するという考え方を見ました。今回は、それによって第2回の困りごとがどれだけ減るのかを金額にします。計算するのは導入によって得られる分だけで、投資額は製品や規模によって変わるため、この回では触れません。

1. 先に結論 ― 年間2,511万円

この工場の条件で計算すると、1年間で25,110,000円の効果が得られます。この1年あたりの金額を年間Return値と呼びます。内訳で最も大きいのは、設備費の7,974,000円です。段取り時間が減った分だけ設備が製品をつくれる時間が増え、その時間を設備単価で金額に換算したものです。

この金額は6つのコストダウン項目の合計で、そのうち5つは、削減できる時間に単価を掛けて求めます。計算式はすべて「1か月の削減時間 × 単価 × 12か月」です。在庫保有コストだけは、時間ではなく在庫の金額から求めます。5つの式の形が同じなので、自社で試算するときは、削減時間と単価を自社の値に置き換えるだけで済みます。

2. 前提値 ― この値をもとに計算します

前提値値備考
品番数約400見込み生産品 約320 / 受注生産品 約80
月間段取り時間 (5工程合計)480時間第1回の設備表の合計
段取り時間削減率25%想定値
計画担当者2人生産計画を作成する担当者
計画作成時間75時間/月・人計画の作成と作り直しに使う時間
計画時間削減率40%想定値
管理担当者2人在庫の確認と前倒しの指示を行う担当者
管理時間60時間/月・人2人で月120時間 (第2回)
管理時間削減率50%想定値
段取り人件費単価 (残業相当)3,500円/時作業者の時間単価2,800円に割増25%を加算
資材・電力単価1,500円/時洗浄剤、試し打ち材料、暖機の電力
計画人件費単価4,300円/時計画担当者の時間単価
管理人件費単価4,500円/時管理担当者の時間単価
棚卸資産 (在庫額)2億4,000万円原材料・仕掛品・製品の合計
在庫圧縮率15%在庫を減らせる割合。想定値
保管コスト率10%/年在庫額に対して1年間でかかるコストの割合

段取り時間削減率の25%は、第3回で置いた想定値です。段取り時間がどれだけ減るかは工場ごとの品番の構成によって違い、実際に生産順序を組み替えて記録を取るまで分からないためです。導入の前後で1か月ずつ段取り時間を記録すれば、実測値に置き換えられます。

3. 段取り時間の削減量を計算する

工程ごとの月間段取り時間に削減率25%を掛け、5工程分を足します。設備単価は工程によって違うため、削減した時間は分けて金額にします。

工程月間段取り時間削減率削減時間設備単価年間金額
コイル切断48時間25%12時間3,000円/時432,000円
プレス成形240時間25%60時間8,000円/時5,760,000円
バリ取り72時間25%18時間2,000円/時432,000円
表面処理60時間25%15時間6,000円/時1,080,000円
検査・選別60時間25%15時間1,500円/時270,000円
合計480時間—120時間—7,974,000円

段取り時間の削減量は月120時間です。いちばん右の年間金額は、削減時間に工程ごとの設備単価と12か月を掛けた値です。これが、この後の表に出てくる設備費にあたります。

プレス成形だけで5,760,000円となり、設備費の7割を占めます。削減時間が60時間と最も長く、1時間あたりの単価も最も高いためです。

4. 計画と管理の時間削減を計算する

計画作成時間の削減量は、計画担当者2人 × 75時間/月・人 × 40% = 月60時間です。管理時間の削減量は、管理担当者2人 × 60時間/月・人 × 50% = 月60時間です。どちらも同じ値になりますが、単価が違うため金額は異なります。 計画時間が減るのは、計画担当者が表計算ソフトで生産順序を組み立てていた作業を、最適化AIが代わりに行うためです。担当者の仕事は、最適化AIがつくった案の確認と修正になります。管理時間が減るのは、安全在庫を守る順番が計画の中に組み込まれ、欠品しそうな品番を探して前倒しを指示する作業が減るためです。この管理時間にかかる人件費は、第2回で触れた間接人件費の一部です。

5. 6つのコストダウン項目を計算する

コストダウン項目計算式年間金額
計画作成人件費60時間 × 4,300円 × 12か月3,096,000円
管理人件費60時間 × 4,500円 × 12か月3,240,000円
段取り人件費 (残業相当)120時間 × 3,500円 × 12か月5,040,000円
段取りコスト (資材・電力)120時間 × 1,500円 × 12か月2,160,000円
在庫保有コスト2億4,000万円 × 15% × 10%3,600,000円
設備費 (段取り停止の解消)工程別の削減時間 × 設備単価 × 12か月7,974,000円
合計 (年間Return値)—25,110,000円

設備費は、段取りで止まっていた設備が動けるようになった分の金額です。第2回で見たとおり、止まっている時間にも償却費は発生します。動く時間が増えれば、同じ償却費でより多くつくれるようになります。

在庫保有コストだけは計算の形が違います。時間ではなく在庫の金額から求めるためです。在庫圧縮率15%は、欠品を防げる生産順序が組めれば、安全のための上乗せと仕掛品を減らせる、という見込みで置いた値です。

6. 合計と構成比

設備費が3割を占めます。効果を左右するのは、設備が止まっている時間をどれだけ減らせるかです。

6つを足すと年間25,110,000円、月額換算で2,092,500円です。下の表は、6つの項目が合計に占める割合です。

コストダウン項目年間金額構成比
計画作成人件費3,096,000円12.3%
管理人件費3,240,000円12.9%
段取り人件費 (残業相当)5,040,000円20.1%
段取りコスト (資材・電力)2,160,000円8.6%
在庫保有コスト3,600,000円14.3%
設備費 (段取り停止の解消)7,974,000円31.8%
合計25,110,000円100.0%

段取りに関わる3つの項目、つまり段取り人件費、段取りコスト、設備費を合わせると全体のおよそ6割にあたります。残る4割は、計画と管理に使われていた人の時間と、在庫を持つことによる負担です。

7. 変動費と固定費に分けて理解する

この25,110,000円は、性質の違う2種類の効果からできています。分けておけば、社内で説明するときに根拠を示しやすくなります。

区分該当するコストダウン項目年間金額構成比
変動費段取り人件費、段取りコスト、在庫保有コスト10,800,000円43.0%
固定費計画作成人件費、管理人件費、設備費14,310,000円57.0%
合計—25,110,000円100.0%

変動費に当たる10,800,000円は、そのまま現金の節約になります。残業代が減り、洗浄剤と電力の使用量が減り、在庫にかかる保管コストが減るためです。

固定費に当たる14,310,000円は、すぐに現金の支出が減るわけではありません。計画担当者と管理担当者の給与は、作業時間が減っても変わらないためです。設備費も同じで、止まっていた設備が動くようになっても、その時点では償却費は変わりません。 固定費の分は、増産に使って初めて金額になります。空いた人の時間と設備の稼働時間を、新しい受注に回すためです。プレス成形で月60時間の余力が生まれれば、その時間で受注した分は設備を増やさずにつくれます。変動費は確実に得られる効果、固定費は増産に回せる余力として読み分けるのが正確です。

まとめ ― 自社の前提に置き換えて使えます

第2回で挙げた4つの困りごとを、それぞれ金額に置き換えました。欠品の発見と前倒しの指示にかかる時間は管理人件費に、段取りの増大は段取り人件費と段取りコストと設備費に、ロットサイズのジレンマと在庫の増加は在庫保有コストに現れています。どの金額も、前提値と計算式から誰でも検算できます。

この数字をそのまま自社に当てはめることはできません。段取り時間、設備単価、在庫額、担当者の人数は、どの工場でも違うためです。先に自社の数字で計算しておけば、見積もりを見たときに高いか安いかを自分で判断できます。 次回は、この試算を実際の導入にどうつなげるかを扱います。あなたの工場の段取り時間に設備単価を掛けたとき、その金額は投資の判断を後押しするものになっているでしょうか?

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