モーターコア工場の段取りはなぜ長い? 工程と設備の基礎|モーターコアのAI生産スケジューリング 1

2026.11.01A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

この連載では、EVやハイブリッド車のモーターに使うモーターコアをつくる工場を例に、基礎知識、課題、解決策、ROI試算、導入の進め方の順に5回で説明します。1回目の今回は、モーターコアの役割と工場の全体像を取り上げます。例にする工場では、段取り時間が5工程で月339時間あります。そのうち140時間が、2台の大型プレス機に集まっています。

モーターコアのAI生産スケジューリング 第1回 インフォグラフィック

1. 金属部品とは

自動車には、鋼板やアルミ、銅を加工した部品が数多く使われています。金属は樹脂より強く熱にも耐え、電気や磁気も通します。そのため、力を受ける箇所や、電気を流す箇所、磁気の通り道に向いています。

これらの部品をまとめて金属部品と呼びます。モーターの中で磁気の通り道になるモーターコアも、薄い鋼板を加工した金属部品です。

2. モーターコアとは ― 用途、構造、品番

モーターは、巻いた電線に電気を流すと生まれる磁石の力で、軸を回します。この磁石の力は空気よりも鉄の中を通りやすいため、モーターの中には磁気の通り道として鉄の部品を置きます。この鉄の部品をモーターコアと呼びます。EVやハイブリッド車では、車を動かす駆動用のモーターが1台に1つか2つ載り、モーターごとにモーターコアが要ります。

モーターコアには2つの部分があります。モーターの外側で回らない部分をステータコアと呼び、内側に並んだ歯に電線を巻きます。内側で回る部分をロータコアと呼び、EVの駆動用モーターでは、磁石を入れる穴が開いています。

薄い電磁鋼板を積み重ねたステータコア(左)とロータコア(右)
薄い電磁鋼板を積み重ねたステータコア(左)とロータコア(右)

どちらもモーターに組み込まれて車に載ります。このように、より大きな製品の一部として使われる部品を構成部品と呼びます。

モーターコアは、1枚の厚い鉄ではなく、薄い鋼板を何十枚から数百枚も重ねてつくります。1枚のままだと、鉄の中に渦のような電流が流れて熱になり、電力が失われるためです。

材料には、磁気を通しやすく電気を流しにくい電磁鋼板を使います。表面には、重ねた板どうしの間に電気が流れないよう、薄い絶縁の膜が付いています。EVでは、失われる電力を減らすために、厚さ0.30mm以下の電磁鋼板が増えています。

鋼板をコイル状に巻いたもの
鋼板をコイル状に巻いたもの

重ねた板がばらばらにならないよう固定するしかたは、2通りあります。1枚ずつに小さな突起を打ち出し、重ねて押し込んで止める方法をかしめと呼びます。これに対して、板の間に接着剤を点で付けて固める方法を接着と呼び、絶縁の膜を傷めない分、モーターの効率を高められます。

電磁鋼板の等級と厚さ、外径と内径、歯の数と形、重ねた高さ、かしめか接着か、のうち、どれか1つでも違えば、別の品番になります。重ねた高さは積厚と呼び、品番ごとに決まっています。この連載で想定する工場では、約120品番を扱います。

3. 典型的な工場と、スケジュールの対象となる工程

想定するのは、鋼板を切り分けるスリッターを1台、大型プレス機を2台、中型プレス機を3台持ち、電磁鋼板のコイルから積み重ねたコアまでを1か所でつくる中規模の工場です。工場は2交替で1日16時間、年250日動いており、1台・1ラインの年間の稼働時間は4,000時間です。この工場では、打ち抜いたあとに歪みを取る熱処理と、ロータコアに磁石を入れる作業は行わず、積み重ねたコアをモーターメーカーへ納めます。

量産車種向けの約96品番は、オーダを受ける前につくり、在庫として持っておきます。この96品番を見込生産品と呼びます。つくる量は、モーターメーカーから先々の生産予定として知らされる数量に合わせて決めます。この数量を内示数量と呼びます。

見込生産品の在庫には、欠品しないように最低限持っておく量を決めておきます。この量を安全在庫と呼びます。在庫が安全在庫を下回る前につくって補充する進め方を、在庫補充生産と呼びます。

試作や生産台数の少ない車種、補修用のモーターコア約24品番は、オーダを受けてから納期に間に合うようにつくります。この24品番を受注生産品と呼びます。急ぎの生産が必要になるのは、見込生産品では在庫が安全在庫を下回りそうなとき、受注生産品では納期が近づいたときです。

生産計画の対象は、スリットから梱包までの5工程です。次の品番やコイルに移るときは、設備の設定を替えてから生産を始め、この切替にかかる時間を段取り時間と呼びます。下の表は、この5工程を進む順に並べ、工程ごとの設備と段取り時間をまとめたものです。表の設備単価は、設備1台(検査と梱包は1ライン)の1時間あたりのコストで、第4回で使います。

工程設備台数設備単価作業者段取り条件段取り時間(1回)月間段取り時間
スリットスリッター1台6,000円/時2人コイルの継ぎ替え、刃の並びと刃のすき間の切替20〜60分49時間
打抜き・積層(駆動用)大型プレス機2台7,500円/時2人コイルの継ぎ替え、金型の交換、かしめと接着の切替20〜160分140時間
打抜き・積層(補機用)中型プレス機3台3,000円/時2人コイルの継ぎ替え、金型の交換15〜60分120時間
検査積厚・寸法の検査機2ライン1,200円/時2人測る品番の治具と基準の切替20分20時間
梱包梱包機1ライン450円/時1人荷姿の切替10分10時間
合計———9人——339時間

最初の工程では、スリッターが幅約1,000mmのコイルを金型に合う幅に切って巻き直します。スリッターで切り分けた細い材料を、スリット材と呼びます。

次の工程では、プレス機が1回上下するたびにスリット材を少しずつ送り、1つの金型の中で穴あけと打抜きを順に行います。打ち抜いた板は、決まった枚数だけ重ねて、かしめか接着で固めます。打抜きから重ねて固めるところまでを行うこの金型を、自動積層金型と呼びます。

プレス機と自動積層金型。左からスリット材が送られる
プレス機と自動積層金型。左からスリット材が送られる

駆動用モーターのコアは大型プレス機で、電動パワーステアリングやポンプなどの補機のモーターのコアは中型プレス機でつくります。そのあと積厚と寸法を検査し、梱包して出荷します。

大型プレス機の段取りは、前後の品番で20分から160分まで変わります

同じ品番を続けて流すときは、金型はそのままで、前のコイルの終わりを外して次のコイルのスリット材を通します。試しに打って積厚を確かめるだけなので、この工場では段取りに20分をかけています。この切替をコイルの継ぎ替えと呼びます。

品番が替わるときは、金型そのものを替えます。駆動用モーターの自動積層金型は約1.6tあり、天井クレーンで吊り上げて出し入れします。新しい金型を据えたら、スリット材を送る長さと金型の高さを合わせ、試しに打って寸法と積厚を確かめるので、120分かかります。この切替を金型の交換と呼びます。

かしめの品番と接着の品番の間で切り替えるときは、金型の交換に加えて、接着剤の準備や後始末が要ります。この切替は、最も長い場合で160分になります。

どの切替でも、条件を替えたあとに試しに打ち、寸法と積厚が合うまでに打った板は、製品にならないので捨てます。このように打ち始めのスリット材を使って確かめることを試し打ちと呼びます。段取りは金型を替える時間だけだと考えがちですが、試し打ちで良品が出始めるまでが段取りです。

天井クレーンは1基、段取り工は2人です

大型プレス機の金型の交換は、天井クレーンを使って、専門の段取り工が行います。この工場の天井クレーンは1基で、2人の段取り工が中型プレス機の金型の交換も受け持ちます。ほかの工程でも段取りは2人で行い、その工程の作業者が足りないときは応援の作業者が加わります。

2台の大型プレス機が同じ時刻に金型の交換に入ると、後のプレス機は、1基しかないクレーンが空くまで待ちます。プレス機が2台あっても、金型を替える時刻が重なると2台分の生産量にはなりません。

4. 生産管理で目指すことと、ボトルネック

この工場の生産管理は、欠品と納期遅れを防ぎながら、段取り時間と在庫を減らすことを目指しています。モーターコアが欠品すると、納入先のモーターメーカーでモーターを組み立てられなくなります。そのため見込生産品では、在庫が安全在庫を下回った回数を安全在庫違反回数として数え、主な指標にしています。

工場が1か月に出荷できる量は、最も能力に余裕のない工程で決まります。この工程をボトルネックと呼びます。この1か月に出荷できる量のように、単位時間あたりに工場から出ていく製品の量を、スループットと呼びます。

この工場のボトルネックは駆動用の大型プレス機で、根拠は2つあります。1つは、月間段取り時間が2台で140時間と5工程で最も長く、合計339時間の4割余りを占めることです。もう1つは、金型の交換に使う天井クレーンが1基、段取り工が2人しかいないため、2台が同じ時刻に金型を替えると後のプレス機が待つことです。

5. まとめ

モーターコアの工場では、約120品番が5つの工程を流れ、見込生産品の補充と受注生産品の納期対応が同じ設備を使います。大型プレス機の段取りは、前後の品番が同じかどうかと、かしめか接着かで20分から160分まで変わります。金型の交換には、1基のクレーンと2人の段取り工が要ります。

次回は、欠品と納期遅れを防ぐことと、段取り時間と在庫を減らすことがなぜ両立しにくいのかを、4つの課題に分けて説明します。あなたの工場では、先月プレス機の金型を何回替えたか、すぐに答えられますか?

解説動画

この回の内容を、動画でも説明しています。

次のコラム

大型プレス機の段取りは2台で月140時間、試し打ちで捨てるスリット材はプレス機5台で月2,880mになります。特急対応、ロットサイズ、スリット材の置き場での待ちと合わせ、モーターコア工場の4つの課題が1つの原因でつながっている仕組みを説明します。

タグ : ボトルネック モーターコア モーターコア工場 段取り時間 生産スケジューラ 生産スケジューリング 生産管理 自動積層金型 見込生産 電磁鋼板