モーターコア工場の4つの課題 金型交換と材料のむだ|モーターコアのAI生産スケジューリング 2

2026.11.01A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

全5回の2回目です。前回は、工場の設備と工程、ボトルネックである大型プレス機を説明しました。今回は、現場で実際に起きている課題を4つに整理します。

モーターコアのAI生産スケジューリング 第2回 インフォグラフィック

大型プレス機の段取りは2台で月140時間あり、試し打ちで捨てるスリット材はプレス機5台で月2,880mになります。進捗管理担当者2人が、在庫の確認と、より早くつくるよう現場に求める作業にかけている時間は、月120時間です。

想定する工場

第1回と同じ、スリッター1台、大型プレス機2台、中型プレス機3台を持つモーターコアの工場です。約120品番のうち、見込生産品が約96、受注生産品が約24あり、この2種類を同じ設備で併産しています。生産計画は計画担当者3人が表計算ソフトで毎日作り直し、進捗管理担当者2人が在庫と生産の進み具合を管理しています。

課題1. 金型の交換と試し打ちによる段取り時間とコストの増加

第1回の表のとおり、5工程の月間段取り時間は339時間で、うち140時間が大型プレス機2台です。大型プレス機の切替には、コイルの継ぎ替えと金型の交換のほかに、かしめと接着の切替があります。この切替は、向きによって時間が違います。

天井クレーンで吊り上げた金型を、大型プレス機の前へ下ろす
天井クレーンで吊り上げた金型を、大型プレス機の前へ下ろす

かしめの品番から接着の品番に移るときは、金型の交換に加えて、接着剤を板に送る装置を準備します。そのあと試し打ちをして、接着剤が板の決められた場所に、決められた量だけ付いているかを確かめます。この工場では、この切替に140分をかけています。

接着の品番からかしめの品番に戻るときは、スリット材を送る経路に残った接着剤を拭き取ります。残ったままだと、次のかしめのコアに接着剤が付くためです。この工場では、この切替に160分をかけています。

大型プレス機1台で1か月に行う段取りは、コイルの継ぎ替えが30回、かしめどうし・接着どうしの金型の交換が15回、かしめから接着への切替が6回、接着からかしめへの切替が6回です。20分×30回+120分×15回+140分×6回+160分×6回で月4,200分、つまり70時間になり、2台で140時間です。70時間は、年間の稼働時間4,000時間を12で割った月約333時間の約2割にあたります。

段取りのコストは、作業者の人件費、資材と電力、止まっている設備のコストの3つに分かれます。人件費は、段取りが予定より長引くと、その分の生産を残業で補うため、残業相当の単価がかかります。資材と電力には、試し打ちで捨てるスリット材のほか、この工場では、段取りでプレス機が止まっている間も動かしておく油圧と潤滑の装置の電力が含まれます。

試し打ちで捨てるスリット材は1回に5mから20mなので、損は小さいと考えがちです。実際には、プレス機5台を合わせると月2,880mに達します。モーターコアはコストの約7割を電磁鋼板の材料費が占める部品で、捨てるスリット材はそのまま損になります。

設備のコストは、購入代金を使用年数に割り振った償却費と保守のコストです。どちらも設備が止まっている間もかかりますが、止まっている間は製品をつくっていないので、売上げになりません。

段取りのほかに、金型を外す理由がもう1つあります。打った回数が増えると刃が摩耗し、打ち抜いた縁の出っ張りが大きくなるため、金型を外して刃を研ぎ直します。この工場では、駆動用の金型は200万回打つごとに、研ぎ直しに8時間をかけています。

課題2. 欠品と受注生産品の納期による特急対応

見込生産品で在庫が安全在庫を下回りそうな品番や、受注生産品で納期が近いのに着手していないオーダが見つかると、進捗管理担当者はその品番をより早くつくるよう現場に求めます。これを督促と呼びます。督促を受けて、決めてあった生産順序を組み替えて急ぎの品番を先につくることを特急対応と呼びます。

特急対応で急ぎの品番を先につくると、流す品番の組み合わせが変わり、金型の交換が増えます。1回の生産でまとめてつくるひとまとまりをロットと呼びます。

機種Aのステータコアを2ロット続けて流してから機種Bに移るはずだったところへ、督促を受けて機種Bが機種Aの2ロットの間に入るとします。コイルの継ぎ替え1回と金型の交換1回で140分だった段取りが、金型の交換2回の240分になります。試し打ちで捨てるスリット材も、25mから40mに増えます。

金型の交換が増えるほど、2台の大型プレス機が同じ時刻に金型を替える機会も増え、1基のクレーンを待つ時間が加わります。段取り時間が増加した分だけ後ろの品番の着手が遅れ、遅れた品番が次の特急対応の候補になります。

進捗管理担当者2人は、在庫の確認と督促に月120時間を使っています。この作業は製品を直接つくらないため、かかる人件費は間接人件費になります。

課題3. ロットサイズが最適化できず、在庫が増える

現場は、金型の交換を減らそうとして、同じ品番を2週間分まとめて流します。1回の生産でまとめてつくる量をロットサイズと呼びます。ロットサイズを大きくすると段取り時間を短縮できます。ただし、その品番が大型プレス機を長い時間使い、ほかの見込生産品の補充と受注生産品の着手が遅れます。

遅れた見込生産品の在庫が安全在庫を下回ると、今度はロットサイズを小さくし、金型の交換が増えて段取り時間が増加します。現場は、大ロットと小ロットを交互に繰り返します。

大ロットで2週間分まとめて打ったモーターコアは、出荷までの間、製品の在庫になります。欠品を避けようとするほど、第1回で説明した安全在庫も多めに決めるようになり、在庫はさらに増えます。

電磁鋼板のコイルと切り分けたスリット材、加工の途中の品物、製品は、会計上棚卸資産として扱われ、この工場では2億4,000万円あります。在庫を持つと、置き場の保管コストと、在庫に使った資金をほかに使えないことによる負担がかかります。これを在庫保有コストと呼びます。

在庫額に対するこの負担の割合を保管コスト率と呼び、この工場では年10%としています。2億4,000万円に掛けると、年2,400万円になります。

課題4. スリッターと大型プレス機の同期がとれず、スリット材が置き場で待つ

大型プレス機に送るスリット材は、すべて1台のスリッターで切り分けます。この工場のスリッターでは、スリット材の幅が違えば、厚さにかかわらず刃の並びを組み替えるのに60分かかります。幅が同じで厚さだけが違えば、刃のすき間を合わせ直すのに45分かかります。

そのため、同じ厚さ・同じ幅のスリット材をまとめて切るほうが有利です。大型プレス機では、金型の交換が1回120分なので、同じ金型を続けて使える順に流すほうが有利です。

スリット材の幅と厚さは金型ごとに決まっていますが、スリッターが有利な順序と、大型プレス機が有利な順序は一致しません。2つの工程で別々に生産順序を決めると、スリット材は切ったあと、プレス機がその金型に替わるまで待つことになります。例えば、機種Cのステータコア用の厚さ0.25mmのスリット材を、スリッターが火曜の10時に切り終えたとします。大型プレス機が機種Aを流し続け、機種Cの金型に替わって打ち始めるのが水曜の6時なら、スリット材は加工の途中のまま20時間置き場で待ちます。

置き場でプレス機を待つ、切り分けたスリット材のコイル
置き場でプレス機を待つ、切り分けたスリット材のコイル

この加工の途中の品物を仕掛品と呼びます。材料が工場に入ってから製品として出ていくまでの時間を製造リードタイムと呼び、この20時間も製造リードタイムに含まれます。

反対に、スリッターに合わせて大型プレス機の生産順序を決めると、金型の交換が増え、1基のクレーンと2人の段取り工の手が空くのを待つプレス機が出てきます。どちらか一方の工程に合わせるのではなく、前の工程が終わった時刻に後の工程が着手できるよう、工程どうしの順序と時刻をそろえることを同期化と呼びます。

まとめ

4つの課題は、それぞれ別に起きているのではなく、原因と結果の関係でつながっています。特急対応で流す品番の組み合わせが変わると、金型の交換が増えて段取り時間が増加し、試し打ちで捨てるスリット材も多くなります。金型の交換が重なればクレーンを待つ時間も加わり、スリッターで先に切ったスリット材も、プレス機の前で長く待ちます。その段取り時間を短縮しようとロットサイズを大きくすると、在庫が増え、補充が遅れて特急対応がまた起きます。

4つの課題の原因は1つです。①金型、②かしめか接着か、③天井クレーンの台数と段取り工の人数、④金型の研ぎ直しの時期、⑤ロットサイズ、⑥スリッターでスリット材を切る時刻を同時に見ないまま生産順序を決め、安全在庫を下回りそうな品番や納期の接近が見つかるたびに、特急対応で組み替えていることです。次回は、この4つの課題を1回の計算でまとめて解決する方法を説明します。あなたの工場では、明日大型プレス機で流す品番の生産順序は、何を基準に決まっているでしょうか?

解説動画

この回の内容を、動画でも説明しています。

次のコラム

28ロットを1列に並べる順序だけでも、約10の29乗通りあります。同じ品番のロットを続けて流すように生産順序を組み替えると、段取り時間は240分から140分に短縮し、捨てるスリット材も40mから25mに減ります。

タグ : モーターコア工場 ロットサイズ 同期化 在庫保有コスト 特急対応 生産スケジューラ 生産スケジューリング 生産管理 試し打ち 金型交換