生産スケジューラ導入はめっきライン1本から 記録の手順|端子・バスバーのAI生産スケジューリング 5

2026.10.20A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

全5回の最終回です。前回は年間Return値を6つのコストダウン項目に分けて計算し、結果を最も左右するのが段取り削減率であることを説明しました。今回は、その削減率を自社の実測に置き換えるための導入の進め方と、データの準備を扱います。

端子・バスバーのAI生産スケジューリング 第5回 インフォグラフィック

対象は5工程のうちボトルネックのフープめっきの1工程に絞り、導入前と導入後に1か月ずつ段取りを記録します。最適化AIに入れるデータは5つあり、このうち新たに記録するのは、導入前1か月の段取りだけです。

1. よくある不安

よくある不安不安の原因
全工程を一度に変えるのは難しい5工程の計画の立て方を同時に変えると、現場の確認と手直しの量が一度に増えるため
現場が使ってくれないかもしれない計画担当者やめっきラインの班長の経験による判断が、計算結果に置き換えられると感じるため
データをそろえるのが大変品番ごとのめっきの種類と全面めっきか部分めっきか、段取り時間、試しめっきで捨てた長さが、紙の記録や担当者の記憶にしか残っていないため

2. 不安を小さくする3つの視点

(1) 1工程からスモールスタート

対象を1工程に絞れば、集めるデータは、その工程を流れる品番と、段取りに関わるものだけです。計画を確認する人も、計画担当者と班長に限られます。1工程で導入前後の記録を比べて効果を確かめてから、次の工程に広げます。

(2) ベテランの勘は制約条件として文書化する

銀めっきの品番は班長が立ち会える日勤の時間に流す、部分めっきの品番は同じマスクを使うものを続けて流す、などの決まりは、班長が覚えているだけで、文書には残っていません。このように、経験から身についていても言葉になっていない知識を暗黙知と呼びます。これを文書にして、ほかの人や生産スケジューラが使える形にした知識が形式知です。

これらの決まりを制約条件として生産スケジューラに入れれば、暗黙知が形式知になり、ベテランの判断が計画に残ります。どう書けば計算に入れられるか迷う条件は、ベンダー(開発元)に相談してください。

(3) リスケジュールで、何度でも作り直せる

最初の計画が現場で守っている決まりに合わなくても、制約条件を書き換えてリスケジュールすれば、計画を作り直せます。計画担当者が毎回同じ箇所を直しているなら、その内容を制約条件として加えます。試したあとで書き換えられるため、始める前に条件を完全にそろえる必要はありません。

3. 最初に選ぶ工程は、フープめっき

最初の1工程は、第1回で説明したボトルネックのフープめっきにします。導入前と導入後で比べて段取り削減率を出す数字は、月間段取り時間です。

導入前と導入後の1か月ずつ、段取りを1回ごとに記録します。項目は、①日時、②前後の品番とめっきの種類、③全面めっきか部分めっきか、④品番替えとめっきの種類の切替とマスクの付け外しのどれか、⑤段取りにかかった時間、⑥プレス工程からフープが届くのを待った時間、⑦試しめっきで捨てた帯の長さです。導入後の月間段取り時間が導入前からどれだけ短縮したかの割合が、自社の段取り削減率です。捨てた帯の長さは段取り時間とは別に数え、材料のコストとして、第4回の段取りコストの見直しに使います。

最適化AIに入れるデータは、次の5つです。段取り時間と捨てる長さは導入前の記録から求め、ほかの4つは品番と設備の台帳と、在庫とオーダの記録から集めます。

  • 品番ごとのめっきの種類、全面めっきか部分めっきか、帯の幅と厚さ
  • 品番替え、めっきの種類の切替、マスクを付けるときと外すときの段取り時間と、試しめっきで捨てる長さ
  • 見込生産品の安全在庫と現在の在庫
  • 受注生産品のオーダごとの納期と数量
  • プレス機の台数、段取り工の人数、品番ごとにプレス工程で打ち終える予定の時刻

4. 次に広げる工程は、順送プレス

次にどの工程へ広げるかは、導入後の記録を見て決めます。めっきラインの段取り時間を短縮しても、プレス工程から届くフープを何時間も待っていれば、ボトルネックが止まっている時間は減りません。記録の中のプレス工程からフープが届くのを待った時間が長ければ、次は順送プレスです。プレス工程に広げる段階では、第3回で説明した工程の同期を、プレスとめっきの2つの工程で行います。

まとめ ― 順番を変えれば、未来が変わる

全工程を一度に変えなくても、ボトルネックのフープめっきの1工程から始められます。導入前後の段取り時間を同じ項目で記録すれば、第4回の段取り削減率30%を実測値に置き換えられ、試しめっきで捨てた帯の長さも記録すれば、段取りコストも自社の数字で確かめられます。設備を増やす前に、生産順序を変えることでスループットを増やせるかどうかが、1工程で分かります。あなたの工場で、めっきラインの1工程の段取りを1か月記録するとしたら、誰がどの項目を書くことになるでしょうか?

解説動画

この回の内容を、動画でも説明しています。

第1回から読む

全5回の最終回です。第1回から通して読むと、工場の全体像から導入の進め方までを順にたどれます。

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