【ランプ製造工場のMPS 5】最適化AIのROIを試算する

2026.07.26A1:生産計画・スケジューリング , S07:Auto MPS: 基準日程生産計画を最適化したい , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

「効果は分かった。で、いくらになるんだ?」

工場棟に隣接する会議室。ホワイトボードの前に立つ笠原工場長が、資料をめくる手を止めて言いました。

「前回のB社北陸工場の事例は腹に落ちた。だがな、いまおかさん。役員会で通すには、うちの数字で語れないと意味がない。リターン値、つまり年間でいくら返ってくるのかを試算してみよう」

今岡さんがノートPCを開きます。「はい。効果の積み上げ式はこう整理できます」

リターン = Δ在庫コスト + Δ外注コスト + Δ残業コスト + Δ計画作成コスト (このほかΔエネルギーコスト、Δ停止コスト、Δ設備投資ロスも加算できますが、今回は確度の高い4項目に絞ります)

ポイントは、自社の実績値に削減率を掛けるだけというシンプルさです。魔法の数字は要りません。順に見ていきましょう。

試算① 在庫12億円はどこまで減らせるか

東海工場の在庫金額は合計12億円。内訳は蒸着前仕掛在庫3億円、SP品在庫2億円、量産品在庫7億円です。

「蒸着はバッチ式チャンバー6基がボトルネックだ。成形がフローで流れてくる境界に、仕掛が慢性的に滞留している」と笠原工場長。

今岡さんが続けます。「日次再計画で蒸着チャンバーの投入計画に合わせて成形の完成時期を毎日引き直せば、先行造り貯めが不要になります。蒸着前仕掛は半減の▲1.5億円が狙えます」

SP品は、品番ごとの安全在庫を「在庫日数(翌週需要を1日当たりに直して何日分持つか)」で設定し、需要に合わせて毎日動的に見直します。感覚値の一律バッファが消えるので40%減の▲0.8億円。量産品も同じ仕組みで24%減の▲1.7億円。

合計で12億円→8億円、▲4億円。在庫は減らした瞬間にキャッシュが戻るうえ、保管費・金利・陳腐化リスクを含む在庫保有コスト(年率15%で試算)が毎年軽くなります。

Δ在庫コスト = 4億円 × 15% = ▲6,000万円/年

試算② 月28件の緊急対応は「計画の狂い」の請求書

現状の計画精度は約72%。残り28%が毎週「計画外れ」となり、その尻拭いが月平均28件の緊急対応です。うち約40%は仕向地別品番の読み違いと、光源切替品番の手配遅れ。まさに品番の四重構造と光源移行期という、この工場の構造課題そのものが原因です。

「1件あたりの緊急外注・特急輸送で、平均45万円は飛んでいるな」と笠原工場長。

日次再計画でOEM内示の週次変動に翌日から追従できれば、読み違いが表面化する前に計画側で吸収できます。緊急対応は月28件→12件、▲16件が現実的な線です。

45万円 × 16件 × 12ヶ月 ≒ 8,600万円 緊急外注費 1.5億円/年 → 0.6億円/年(▲9,000万円/年)

件数ベースの積算と金額ベースの削減が概ね一致するか。この突き合わせが、試算の信頼性を高めるコツです。

試算③ 現場の残業は計画品質のバロメーター

現場直接工350名が月8時間ずつ残業しており、年間の残業費は約8,400万円。その主因もまた、28%の計画の狂いを現場が体で吸収していることです。

計画精度が72%→85%に上がれば、狂いに起因する残業の発生原因は約半分になります。

現場残業費 8,400万円/年 → 4,200万円/年(▲4,200万円/年)

「残業が減るということは、蒸着6基と成形28台の金型制約の中で、無理のない山積みができているということだ。数字以上に現場の空気が変わる」と笠原工場長がうなずきます。

試算④ 週64時間の計画業務、その75%は転記作業

計画担当4名×週16時間=週64時間のうち、48時間はExcelとAccessの間のデータ収集・転記・確認です。この部分をAutoMPSが引き受け、人は判断と調整に集中する。計画工数は64時間/週→28時間/週へ。

Δ計画作成コスト = ▲1,200万円/年 計画担当者の残業も400万円/年→100万円/年(▲300万円/年

浮いた週36時間は、金型の必要時期への先回り準備や、光源移行品番の需給シナリオ検討という「本来の計画業務」に振り向けられます。

リターン合計と、その根っこにあるもの

項目改善前改善後効果額/年
在庫保有コスト在庫12億円在庫8億円▲6,000万円
緊急外注費1.5億円0.6億円▲9,000万円
現場残業費8,400万円4,200万円▲4,200万円
計画作成コスト64時間/週28時間/週▲1,200万円
計画担当残業400万円100万円▲300万円
合計リターン約2億700万円/年

今岡さんが画面から顔を上げました。「全部の項目が、結局は同じ一つのことから生まれていますね。需給バランスの動的最適化――毎日計画を引き直し、安全在庫を在庫日数で動かし、金型の必要時期を計画として先に出す。それだけです」

「そうだ。将来APSで金型の詳細割り付けまで自動化する道もあるが、まずはAutoMPSで計画の土台を作るのが先決だな」

売上200億円の工場で、年間約2億円。売上比1%のリターンが、計画の作り方を変えるだけで生まれる試算になりました。しかも使った数字は、在庫金額・緊急対応件数・残業時間・計画工数という、どの工場にも必ずある実績値だけです。

さて、あなたの工場の在庫金額、緊急対応件数、そして計画業務の週間工数――この3つの数字を今すぐ書き出したら、リターン値はいくらになるでしょうか?

次回【ランプ製造工場のMPS 6】では、最適化AI導入ステップと成功のポイントを解説します。

タグ : Return値 SP品在庫 在庫保有コスト 在庫日数 安全在庫の動的設定 日次再計画 緊急外注費 蒸着前仕掛在庫 計画精度 金型制約
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高橋邦芳 + Asprovaコンサルティングチーム + 生成AI