【ランプ製造工場のMPS 1】基礎知識
2026.07.22A1:生産計画・スケジューリング , S07:Auto MPS: 基準日程生産計画を最適化したい , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したいはじめに――工場長の朝は”計画”で始まる
「國分さん、また在庫が積み上がっています。先月は逆に欠品で出荷を止めてしまいました」
笠原工場長がため息交じりにつぶやいた。売上200億円、従業員450名を抱えるヘッドランプ専業工場の工場長でありながら、毎朝のように在庫と欠品の”ジェットコースター”に振り回されています。
営業担当の國分さんが首をかしげます。
「笠原さん、そもそも生産計画ってどうやって立てているんですか? 私は営業なので、工場の計画の仕組みがよくわからなくて……」
「それを説明しようとすると、まずこのヘッドランプという製品の”複雑さ”から話さないといけないんですよ」
こうして、笠原工場長によるMPS(基準日程生産計画)の授業が始まりました。

1. ヘッドランプとは何か――4大樹脂部品の構造
「國分さん、車のヘッドランプって、外から見ると一つの部品に見えますよね。でも中身はかなり複雑なんですよ」
笠原工場長は白板にヘッドランプの断面図を描き始めました。
レンズ(Lens)
「一番外側にある透明の部品です。かつては凸凹のついたガラス製が主流でしたが、今はほとんどがPC(ポリカーボネート)製の射出成形品です。透明度と強度のバランスが求められ、UV硬化型プライマー塗装でコーティングします」
ハウジング(Housing)
「ランプの本体、骨格にあたる部品です。PP(ポリプロピレン)やPC/ABS(ポリカーボネートとABSの混合材)で成形します。LEDモジュールや光源部品をすべてここに固定します。形状が複雑なので金型も大型になります」
エクステンション(Extension)
「ハウジングとレンズの間に挟まる意匠部品です。光の反射を制御しながら、デザインの美しさを演出する役割も担います。PMMAや着色PP材で成形し、意匠色のトップコート塗装を施すことも多いです」
リフレクター(Reflector)
「LEDや電球の光を集めて前方に反射させる鏡の役割をする部品です。PP材で射出成形したあと、真空蒸着でアルミを薄く蒸着して鏡面にします。光の方向を正確に制御するため、形状精度が特に厳しく要求されます」
「なるほど……4種類の樹脂部品が一つのランプに入っているんですね」
「そうです。そして、この4部品がすべてそろって初めて樹脂部品セットとして次工程に渡せる。一つでも欠けたら、ランプは完成しません」
2. 工場の生産フロー――3つのルートが合流する
「では、ランプが完成するまでの流れを整理しましょう」
笠原工場長は三本の矢印を白板に書きました。
【樹脂成形ルート】
原材料(PC・PP・PMMA) → 射出成形(レンズ・ハウジング・エクステンション・リフレクター) → プライマー塗装(UV硬化型) → 真空蒸着(アルミ蒸着) → トップコート塗装(意匠色・焼付乾燥) → ①樹脂部品セット 完成
「原材料の樹脂を射出成形機と金型で成形し、塗装・蒸着を経て4部品がそろったところで樹脂部品セットになります」
【光源モジュールルート】
LEDモジュール・基板・ECU(外部調達または内製) → SMT実装(はんだリフロー) → LED点灯検査 → ②光源モジュール 完成
「LEDや基板の電子部品は、SMT実装ラインではんだ付けして光源モジュールにします。近年は自動運転対応のADB(配光可変型)ECUも搭載されるため、基板の複雑さが増しています」
【最終組立ルート】
①+② 合流 → アッセンブリ(ハウジング+レンズ+LEDモジュール+ブラケット) → 超音波溶着・シーリング → 配光検査(ロービーム・ハイビーム・ADB動作確認) → 防水検査(IPX試験) → 外観検査 → 梱包・出荷
「2つのルートが最終組立ラインで合流し、ランプとして完成します。配光検査と防水検査は自動車部品として不可欠で、ここで不合格になると手直しや廃却になります」
「三つの川が一か所に合流するイメージですね」
「まさにそうです。この合流点に在庫が積み上がるか、あるいは欠品が起きるか――それが毎日の問題です」
3. ランプ業界の規模感――日本と世界
「ちょっと國分さん、大きな話もしておきましょう。ランプ業界の規模です」
自動車用ランプの世界市場規模は、2020年代初頭で3兆円超とも言われ、LED化・インテリジェント化の波に乗って年率数パーセントで成長を続けています。日本国内でも複数の大手メーカーが国内外に生産拠点を持ち、輸出比率の高い輸出産業の一つです。
「日本のランプメーカーは、国内完成車メーカーへの供給だけでなく、海外生産移管品の部品供給や補修部品(SP品番)も担っています。こうした補修用途まで含めると、品番の数は膨大になります」
4. 品番爆発の構造――なぜこんなに種類が多いのか
「ここが、ランプ工場の生産計画を難しくしている核心です」
國分さんは少し身を乗り出しました。
「車種ごとに専用設計が必要なため、ヘッドランプは車種別・グレード別・左右別・仕向地別に品番が分かれます。さらに毎年のモデルチェンジや一部改良でまた新品番が発生します」
たとえば一つの車種でも、
- 国内向け・海外向け(仕向地違い)
- 右ハンドル・左ハンドル(配光方向違い)
- 標準グレード・上位グレード(ADB搭載有無)
と分けると、一車種だけで10品番前後になることは珍しくありません。これが複数車種分重なると、品番数は数百から数千に達します。
「この状態を”品番爆発“と呼んでいます。品種が多いため、少量多品種生産の極端な形になっている。これが生産計画の難しさの根本原因です」
「そんなに多いんですか……」
「それだけじゃありません。品番ごとに専用の金型が必要です。射出成形機の台数は限られているのに、金型の本数は機械台数をはるかに超える。机が10台しかないのに、学生が100人いるようなものです」
5. MPS(基準日程生産計画)の役割
「では、本題のMPSです。MPSとは何かを一言で言うと――」
笠原工場長はゆっくりと板書しました。
「いつ・何を・何個作るか」を品番別・日次で決める基準計画
「MPSは、ランプの完成品(独立需要品番)の生産スケジュールを組む計画です。”独立需要”というのは、お客様(完成車メーカー)からの注文・内示によって決まる需要のことです」
この基準日程計画が決まると、下流の計画が動き出します。
- MRP(Material Requirements Planning):基準日程から、樹脂原材料・部品・基板の所要量と発注タイミングを計算します。
- CRP(Capacity Requirements Planning:能力所要量計画):基準日程から、各品番の生産に必要な金型の稼働ショット数と負荷を計算します。「この時期までにこの金型のメンテナンスが必要だ」「この金型は増備が必要だ」というシグナルを出す役割を担います。
- APS(詳細スケジューリング):基準日程と部品・金型の制約を受けて、設備ごとの実行レベルの製造指示を組みます。
「MPSがなければ、MRPもCRPも計算できない。MPSは工場の計画全体の”出発点”なんです」
6. この工場が抱えているもの
「笠原さん、私には在庫と欠品の話が特に気になります。どちらもMPSと関係があるんですか?」
「深い関係があります。MPSが正しく機能していれば、需要の平準化ができる。急な増産や急な減産を吸収できる。でも今の状態では……」
笠原工場長は遠い目をしました。
当工場の概要を整理すると、以下のとおりです。
| 項目 | 概要 |
| 売上規模 | 約200億円 |
| 従業員数 | 450名 |
| 代表製品 | ヘッドランプ(LEDメイン、ハロゲン混在) |
| 主な課題 | 品番数の多さ、金型管理、在庫と欠品の繰り返し |
「品番が多く、金型制約があり、3つのルートが合流する工場です。このような工場こそ、MPS+APSを組み合わせた計画体制が効く構造なんですよ。それはまた次回詳しく話しましょう」
次回予告――見えていない課題が工場を蝕む
MPS第1回では、ヘッドランプという製品の構造と生産フロー、そして品番爆発とMPSの基本的な位置づけを整理しました。
しかし、笠原工場長の工場が抱える本当の課題は、まだ表面しか見えていません。
- 品番数が増えるたびに、計画担当者は何時間かけて計画を作り直しているのか?
- 金型の稼働状況を「見える化」できていない工場では何が起きるのか?
- 在庫と欠品が繰り返される”本当の原因”はどこにあるのか?
あなたの工場では、今週の生産計画を誰が・何時間かけて・どのように作っていますか?
次回「【ランプ製造工場のMPS 2】課題編」では、笠原工場長と現場の具体的な課題を掘り下げていきます。
高橋邦芳 + Asprovaコンサルティングチーム + 生成AI
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