【ランプ製造工場のMPS 2】課題——「計画が現実に追いつかない」工場の深層にある三つの構造問題

2026.07.23A1:生産計画・スケジューリング , S07:Auto MPS: 基準日程生産計画を最適化したい , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

今週も「特急」が飛んでくる

月曜の朝、東海工場の会議室に生産管理チームが集まっていた。

ホワイトボードには先週の計画達成率が貼り出されている。計画精度72%——つまり、立てた計画の約4分の1は「計画外れ」として処理されたことを意味する。

笠原工場長は腕を組んだまま、数字を眺めていた。

「先週も28件の緊急対応が出た。残業で吸収したけど、このペースが続いたら現場がもたない」

今岡さんがExcelの画面を見ながら言った。

「仕向地別の品番で読み違いが多くて……。同じ車種でも国内向けと輸出向けで品番が違うんですけど、お客様の内示が直前に変わると、もう対応が間に合わないんです」

國分さんが補足した。

「完成車メーカー側も週次で内示を出してくるから、こちらも週次で計画を立て直す。でも、立て直したそばから次の変更が来る。追いかけっこになってしまっています」

上村さんが苦い顔で言った。

「昔は品番がもっと少なかった。LEDが出てきてADBが出てきて、仕向地まで加わって……品番の数が爆発した。Excelで管理するには限界を超えとる」

この会話は、日本のどこかのランプ製造工場でも起きているはずだ。問題の根は「計画担当者の頑張り不足」ではない。構造的な三つの課題が絡み合っている。

課題① 金型制約——「見えないボトルネック」が計画を崩す

ヘッドランプの樹脂成形ルートを考えてほしい。

レンズ・ハウジング・エクステンション・リフレクターの4部品が揃って初めて、組立ラインに部材を投入できる。たった1部品でも欠品すれば、組立ラインは止まる。

東海工場では、射出成形機28台に対して金型が1,200型ある。1台の機械に対して平均40型以上の金型が割り当てられている計算だ。計画担当者が頭を悩ませるのは「どの機械を使うか」ではなく、「今週のロットに対してどの金型をどの順番で段取るか」という問題だ。

「金型の取り合いが毎日起きています」と今岡さんが言う。「同じ金型を使いたい品番が複数あるとき、どちらを先に流すかの判断をExcelで管理しようとすると、どうしても見落としが出る」

問題の本質は、Excelの計画表には金型ガントが可視化されていないことだ。機械の負荷は計算できても、金型の取り合いは担当者の頭の中にしか存在しない。ベテランの上村さんが「感覚でわかる」のは長年の経験があるからで、それが属人化の温床になっている。

さらに深刻なのは、4部品の計画が別々のExcelで管理されていることだ。レンズの計画シートとハウジングの計画シートは連動していない。「レンズは間に合うがハウジングが遅れる」という事態が、計画上では見えないまま進行する。組立ラインに部材が揃わないことが判明するのは、往々にして現場の直前だ。

課題② 品番の四重構造——安全在庫の「一律設定」が過剰と欠品を同時に生む

東海工場の品番は現在400品番。そのうち量産品が320品番、サービスパーツ(SP)が80品番だ。

この品番が「車種 × 色 × 仕様 × 仕向地」の四重構造で成り立っている。

たとえば、ある車種のヘッドランプを例に取ろう。同じ車種でも、左ハンドル仕様と右ハンドル仕様、ロービームとハイビームとADB対応、国内向けと北米向けと欧州向け——それぞれ別品番になる。組み合わせが爆発するのは必然だ。

問題は、安全在庫が全品番に一律の固定数量で設定されていることだ。週に500台生産する主力品番も、月に数十台しか出ないSP品番も、同じ「在庫日数」を前提にしている。

「過剰在庫と欠品が同時発生しているのが不思議でたまらない」と笠原工場長が言う。

仕組みはこうだ。需要が少ないSP品番や仕向地限定品番は安全在庫水準が高すぎるため、在庫が積み上がって資金が眠る。一方、需要変動が大きい主力品番は安全在庫水準が低すぎるため、内示が少し上振れしただけで欠品につながる

SP品番の年間生産数は約3万台、品番あたりでは月数十台の極小ロットだ。廃番後5〜7年間の保守需要に対応するためにどうしても保有しなければならないが、需要が読めない以上、在庫が積み上がる傾向は止められない。SP品在庫だけで2億円が資金として固定されている。

「どの品番にいくら在庫を持つべきか、品番ごとに計算したい。でも400品番を毎週手で計算するのは無理です」と今岡さんは言う。

課題③ 光源移行期の不確実性——ハロゲンとLEDとADBが混在する「踊り場」の難しさ

東海工場は今、ヘッドランプの光源移行期の「踊り場」にいる。

ハロゲン光源のフェーズアウトが進む一方で、LED主体の新型モデルへの切り替えが続いている。そこにADB(アダプティブドライビングビーム)対応の高機能モデルが加わり、社内に三世代の光源が混在している。

「ハロゲンはもう需要が落ちてきているのはわかっている。でも、完全に終わるわけじゃない。どこまで在庫を持つべきか、持ちすぎると廃番になったときに陳腐化損失が出る」と上村さんは言う。

逆にADB対応品は、ECUの調達リードタイムが4〜12週かかる。完成車メーカーが「来月からADB仕様に切り替える」という内示を出してきたとき、リードタイムが間に合わなければ完成車の生産ラインが止まる。

國分さんが付け加えた。「お客様の光源切替の内示が直前に変わることがある。先月の緊急対応28件のうち、約40%が仕向地別品番の読み違いと光源切替品番の手配遅れでした」

光源移行期は、過去の実績データが未来の需要を正確に示さないという点で、計画の難易度が特に高い。フェーズアウト品は実績より需要が落ち、フェーズイン品は実績より需要が立ち上がる。どちらの方向にも「計画の外れ方」が発生しやすい。

「計画担当4名・週64時間」の内訳が示すもの

東海工場の計画業務の実態を数字で整理する。

業務時間割合
データ収集・転記・確認週48時間75%
実質的な判断・調整週16時間25%

計画担当者4名が週に費やす時間の75%がデータ収集と転記と確認だ。ExcelとAccessのデータを突き合わせ、システム間の差異を手で修正し、欠品リスクのある品番を目視で探す——これが仕事の大半を占めている。

「本当は、どの品番がリスクで、どの金型が詰まっていて、どこから先に手をつければいいかを考える時間が欲しい。でも、毎週その時間が取れない」と今岡さんは言う。

実質的な判断に使える時間は週16時間。4名で割れば1人あたり週4時間だ。400品番の計画を週4時間で精査するのは、構造的に不可能に近い。

結果として、計画担当者は「どの品番を優先するか」の判断をかみむらさんの経験則に頼り、かみむらさんは毎週の特急対応の中でその経験則を更新し続けている。これが属人化の再生産サイクルだ。

数字が示す「現在地」

課題を数値で整理しておく。

  • 計画精度 72%——毎週28%が計画外れとして緊急対応に回る
  • 緊急対応 月28件——うち40%が仕向地品番読み違いと光源切替手配遅れ
  • 計画工数 週64時間——うち75%がデータ収集・転記・確認
  • 在庫金額 12億円——うち蒸着前仕掛在庫3億円、SP品在庫2億円
  • 現場残業 350名 × 月8時間——計画の乱れが現場の残業として顕在化

真空蒸着チャンバーの前には3億円の仕掛在庫が滞留している。バッチ式の蒸着工程は1バッチ4時間かかり、フロー型の射出成形ラインとのリズムが合わない。計画が揺れるたびに、その前工程の仕掛が積み上がる。

課題はつながっている

三つの課題を並べると、それぞれが独立した問題に見える。しかし実際には、深くつながっている。

品番の四重構造が安全在庫の設定を複雑にし、正確な安全在庫が設定できないから計画精度が下がる。計画精度が下がると、金型の段取り計画が崩れ、金型制約が露わになる。金型制約が顕在化すると、計画担当者はその日の緊急対応に追われ、光源移行期の不確実性に先手を打つ時間が取れない。

そして光源移行期の読み違いが、また緊急対応を生む。

「毎週、同じことを繰り返している気がする」と笠原工場長が会議室でつぶやいた。

読者への問いかけ

この「繰り返すサイクル」を断ち切るには、どこに手をつければいいのか。計画担当者の人員を増やすことで解決するだろうか。それとも、問題の構造そのものを変える必要があるのだろうか。

あなたの工場の計画精度は、今何パーセントだろうか。そして、計画担当者の時間の何パーセントが「本当の判断」に使われているだろうか——その数字を、一度確認してみてほしい。

次回【ランプ製造工場のMPS 3】解決策編では、この構造課題に対してどのようなアプローチが有効なのかを、具体的に考えていく。

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タグ : OEM内示変動 仕掛在庫滞留 光源移行期 品番四重構造 安全在庫 真空蒸着ボトルネック 緊急対応 計画精度 週次計画サイクル 金型制約
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