【自動車ドアモジュール工場のMPS 4】他社事例:最適化AIの導入

2026.07.29A1:生産計画・スケジューリング , S07:Auto MPS: 基準日程生産計画を最適化したい , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

「うちと同じ悩みを、あの工場はどう乗り越えたのか」

その日の朝、笠原工場長は珍しく早起きして新幹線に乗っていました。行き先は石川県。同業のB社北陸工場が主催する生産管理の勉強会です。國分さんから「同じドア系部品をつくっている工場が、最適化AIを導入して面白い成果を出しています。工場長に直接聞ける機会ですよ」と誘われたのがきっかけでした。

「うちより小さい会社の話だから、参考になるかどうか……」

笠原工場長は車窓を流れる景色を眺めながら、少し斜に構えていました。東海工場の売上は約400億円。対してB社北陸工場は約200億円。規模が違えば悩みも違うだろう、と。

発表が始まるやいなや、他人事ではなくなった

会場は50名ほどが集まる研修室でした。登壇したのは、B社北陸工場の生産計画担当・田中さんです。黒髪をメガネの奥でやや疲れた目をしていましたが、話し始めると声に力がありました。

「わたしたちの工場は、SP品番が全体の約70%を占めています。量産品番は250品番ですが、SP品番が550品番。これを4名で管理していました」

笠原工場長は手元の資料に目を落としました。東海工場はSP比率が60%。それでも今岡さんたちが大変そうにしているのに、70%とは。

「計画立案は毎週火曜日に実施していました。翌週分の基準日程生産計画(MPS)を、ExcelとGoogleスプレッドシートを組み合わせて立てる。4名で週に120時間。1人あたり週30時間です」

笠原工場長は思わず計算しました。週5日で割ると、1日6時間を計画立案に費やしている計算です。現場を歩く時間がどこにあるのか。

「さらに深刻だったのが、属人化です。ベテランの私が全体計画の約70%を一人で握っていました。私が休むと計画が止まる。有給を取るたびに申し訳ない気持ちになっていました」

笑いが起きましたが、笠原工場長には笑えませんでした。東海工場の上村さんも、似たような立場にいます。

数字が示す「導入前の苦しさ」

田中さんはスクリーンに一枚の表を映しました。

指標導入前
計画立案工数120時間/週(4名)
計画精度約60%
在庫回転率年4回転
欠品件数月8件(左側部品に集中)
緊急対応件数週15件

計画精度60%というのは、立てた計画の4割が週の途中で崩れる、ということです。崩れるたびに口頭調整が発生し、緊急対応が週15件。現場は毎週、消火活動をしているような状態でした」

笠原工場長は、東海工場の今岡さんが残業しながら「今日だけで3件差し込みが来ました」とため息をついていた姿を思い出しました。

「特に困っていたのが、欠品です。月8件のうち、左側のドアに使う部品への集中が顕著でした。日本の道路は左側通行なので、左ドアの損傷頻度が高い。つまり、サービスパーツとしての需要が読みにくい。ここが計画の盲点でした」

最適化AIの導入:3ヶ月で何が変わったか

「導入を決めたのは、ベテランへの属人化と欠品の組み合わせが限界だったからです。PSI計画(生産・販売・在庫の連動計画)をAIに組み込んで、日単位のバケットで需要変動を自動反映させる仕組みを構築しました」

導入期間は約3ヶ月。最初の1ヶ月はデータ整備に費やし、残り2ヶ月でシステム設定と試運転を行ったといいます。

「データ整備が一番しんどかった。過去3年分の生産実績と、リードタイムの実測値を品番ごとに洗い直しました。ここを妥協すると、AIが正しい計算をしてくれない」

田中さんはそう語りながら、次のスライドを映しました。

指標導入前導入後変化
計画立案工数120時間/週55時間/週−54%
計画精度60%85%+25pt
在庫回転率年4回転年6回転+50%
欠品件数月8件月2件−75%
緊急対応件数週15件週5件−67%

計画立案工数は週120時間から55時間へ。削減分の65時間を4名で割ると、1人あたり週16時間が浮いた計算です。その時間を、現場確認や品質改善の活動に使えるようになりました」

会場がざわめきました。笠原工場長も、思わず手元のメモにペンを走らせます。

「在庫が減って、欠品も減る」という逆説

笠原工場長が最も引っかかったのは、在庫回転率の改善です。在庫を増やせば欠品は減る、という方向なら理解できる。しかし、たなかさんが示したのはその逆でした。

在庫回転率が年4回転から6回転に上がった、つまり在庫の総量は減っています。にもかかわらず、欠品は月8件から2件に減った。なぜか」

田中さんはここで少し間を置きました。

「答えは、在庫の”偏り”が解消されたからです。導入前は、売れない品番に在庫が積み上がり、売れる品番が足りない状態でした。AIが日単位で需要を予測し、品番ごとの安全在庫水準を自動計算することで、必要なところに必要な量が揃うようになった。総量は減っても、欠品が減るのはそういうことです」

笠原工場長はゆっくりとうなずきました。東海工場でも、同じことが起きているはずだと直感しました。棚の端には埃をかぶった在庫があるのに、毎月のように特定品番が欠品する。あれは在庫の絶対量の問題ではなく、配置の問題だったのかもしれない。

笠原工場長が帰りの新幹線で考えたこと

勉強会が終わり、笠原工場長は会場を出て田中さんに声をかけました。

「うちは東海工場で、品番数も計画担当者数もだいたい倍ですが、構造的な悩みはほぼ同じでした。一つだけ聞かせてください。データ整備の1ヶ月、一番大変だったことは何ですか」

田中さんは少し考えてから答えました。

「品番ごとの固定リードタイムの洗い直しです。実際の現場リードタイムと、Excelに入っていた数字がけっこう違っていて。現場に確認して回るのが地道でしたが、ここをきちんとやったおかげで、導入後の計画精度が85%まで上がったと思っています」

帰りの新幹線の中で、笠原工場長はノートに東海工場の現状を書き出していました。計画担当8名、週240時間、計画精度70%、在庫回転年5回転、欠品月5件前後、緊急対応週10件。

B社北陸工場の「導入前」と比べると、数値はいくぶん良い。しかし、規模は倍です。品番数も、担当者数も、生産設備の台数も。同じ構造的な課題が、より大きなスケールで存在しているとしたら——。

「同じ3ヶ月でいけるかどうか、上村さんに聞いてみるか」

笠原工場長はそうつぶやいて、窓の外の夜景に目をやりました。

あなたの工場では、在庫の「偏り」がどこに潜んでいるか、把握できていますか?

タグ : PSI計画 SP品番 在庫回転率 基準日程生産計画(MPS) 属人化 最適化AI 欠品 緊急対応 計画立案工数 計画精度
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