【ワイヤーハーネスのAI生産スケジューリング 4】ROI試算 ~ 数字で見る年間リターン

2026.07.13A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

全5回の4回目、最重要回です。前回の解決策が、実際にいくらのリターン(投じたコストが値になって返る額)になるのか。第2回で挙げた課題を、年間の金額として検算できる形で示します。

1. 先に結論 ―― 年間およそ3265万円が戻る

下記の前提を置くと、生産スケジューラの導入で年間およそ3265万円相当のコストが戻る計算になります。内訳は、計画・間接業務の人件費、段取り作業費、資材電力、在庫保有、設備の稼働回復の6費目です。個別金額はこの後の表で確認できます。

2. 試算の前提 ―― あなたの工場の数字

まず、工場そのものの数字です。自社の値に置き換えれば、そのまま試算できます。

前提項目
対象設備 (合計台数)60台 (端子圧着20/カプラ挿入20/配線組立20)
設備の使用単価端子圧着 4,200円/時間 ・ カプラ挿入 3,600円/時間 ・ 配線組立 3,000円/時間
品番数8,000品番
段取り時間 (工程別)端子圧着 22 ・ カプラ挿入 12 ・ 配線組立 18 (時間/月・台)
計画担当者数4名
計画作成時間60 時間/月・人
管理(間接)時間120 時間/月 (督促対応を含む)
平均在庫額100,000,000 円

次に、削減率とコスト率・単価の前提です。上の数字にこれらを掛けて、後の6費目を算出します。

削減率・コスト率・単価使う費目
段取り削減率20%③④⑥
計画時間削減率50%
管理時間削減率40%
在庫圧縮率20%
保管コスト率 (年)15%
計画人件費単価4,500 円/時間
管理人件費単価3,200 円/時間
段取り作業単価3,600 円/時間
資材・電力単価1,300 円/時間

なお、表中の保管コスト率とは、在庫を1年間持つのにかかる費用(倉庫スペース・管理の手間・資金の金利・劣化リスクなど)が在庫額に占める割合のことです。一般に年8〜25%程度とされ、ここでは15%と置いています。

3. 年間リターン ―― 6つの費目

全体像を先に示します。各費目は基本的に「月の削減時間 × 単価 × 12」で計算します(⑤在庫だけは在庫額ベースの別式)。計算式に出てくる削減時間の求め方は、この表の下の「内訳1」で、⑥の工程別の内訳は「内訳2」で示します。

費目計算式 (削減時間の出所)年間
① 計画作成人件費計画削減 120時間/月〔内訳1〕 × 計画人件費単価4,500 × 12648万円
② 間接人件費(督促など)管理削減 48時間/月〔内訳1〕 × 管理人件費単価3,200 × 12184.3万円
③ 段取り作業費(残業相当)段取り削減 208時間/月〔内訳1〕 × 段取り作業単価3,600 × 12898.6万円
④ 段取りコスト(資材・電力)段取り削減 208時間/月〔内訳1〕 × 資材・電力単価1,300 × 12324.5万円
⑤ 在庫保有コスト平均在庫額100,000,000 × 在庫圧縮率20% × 保管コスト率15%300万円
⑥ 設備費(稼働回復)工程別に計算〔内訳2〕910.1万円
合計① + ② + ③ + ④ + ⑤ + ⑥3265万円

4. 内訳1 ―― 費目表の「削減時間」はこう求めた

費目表①〜④で使った削減時間の求め方です。段取り削減(③④⑥で使用)は工程別に積み上げ、計画削減(①)と管理削減(②)は担当者・時間ベースで求めます。

段取り削減時間 ―― ③④⑥の土台 (工程別に積み上げ)

工程台数段取り時間 (時間/月・台)段取り削減率月の削減時間 (時間)
端子圧着20台2220%88
カプラ挿入20台1220%48
配線組立20台1820%72
合計60台208

切替回数が最も多く、月あたりの段取り時間が最も長い端子圧着工程の削減時間が最大 (88 時間/月) で、値打ちがいちばん大きい工程です。ここの段取りを詰めることが、ボトルネック余力を広げ、全体のスループット改善に直結します。

計画削減時間・管理削減時間 ―― ①②の土台 (担当者・時間ベース)

項目土台の時間削減率月の削減時間 (時間)使う費目
計画作成4名 × 60時間/月・人50%120
管理(督促など)120時間/月40%48

5. 内訳2 ―― 費目表の⑥設備費を工程別に分けた計算

費目表の⑥設備費は、工程ごとに時間単価が違うため1本の式にまとまりません。そこで工程別削減時間(内訳1で求めた値) × 工程単価 × 12 で個別に計算し、合計します。

工程月の削減時間 (時間)工程単価 (円/時間)年間 (×12)
端子圧着884,200443.5万円
カプラ挿入483,600207.4万円
配線組立723,000259.2万円
⑥ 合計208910.1万円

この⑥合計 910.1万円は、費目表の⑥と一致します。

6. この数字の読み方 ―― 「本当に減る額」を見極める

戻ってくるお金には、二つの種類があります。一つはすぐに減る費用(変動費)で、③残業・④資材電力・⑤在庫の資金がこれにあたります。生産に応じて実際に出ていくお金なので、減った分がそのまま現金の節約になります。もう一つはすぐには現金にならない費用(固定費に近いもの)で、①②の人件費と⑥の設備がこれにあたります。人や設備の費用は、浮いた時間を別の生産や仕事に振り向けて初めて価値になります。つまり、合計額のすべてがそのまま現金で戻るわけではない点は、導入を判断するときに押さえておきましょう。

7. 削減の中身 ―― 浮いた時間を増産に回す

段取り削減 208 時間/月は、フルタイムの設備(月160時間)のおよそ1.3台分に相当する稼働の回復です。さらに計画・管理の削減 168 時間/月が、作業者およそ1.1名分の工数として浮きます。合わせて設備およそ1.3台・作業者およそ1.1名ぶんの余力が生まれる計算です。人員を削るためではなく、同じ人員・設備でもっと作れる余力に変える、と捉えるのが本質です。ボトルネックである端子圧着の余力が増えれば、工場全体のスループットが上がります。

この余力は、需要が急に増えたときにも効いてきます。ふつうは注文が増えると、残業を増やしたり、一部を外注に出したりして対応し、そのぶんコストがふくらみます。しかし段取りと計画の無駄を減らして余力を作っておけば、残業や外注のコストを増やさずに、いまの人員と設備のまま増産できます。つまり、浮いた余力はそのまま売上と利益を伸ばす力になります。コストを減らすだけでなく、稼ぐ力を増やせる――これがスループットを上げる本当の値打ちです。

8. まとめ ―― 数字は、議論を動かす

年間およそ3265万円という数字は、前提を自社の値に置き換えれば誰でも検算できます。導入するかどうかの前に、まず自社の数字で試算してみることが、社内の議論を前に進めます。

あなたの工場の前提値を入れたら、この数字はいくらになるでしょうか。

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