【自動車ドアモジュール工場のMPS 3】最適化AIが必要な理由

2026.07.29A1:生産計画・スケジューリング , S07:Auto MPS: 基準日程生産計画を最適化したい , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

「3時間かけて作り直した計画が、また崩れる」

月曜日の朝8時。東海工場の会議室に、國分さんと今岡さんが並んで座っている。テーブルの上には、週次計画表のプリントアウトが広がっていた。

「また金曜日にプレスが止まったんです」と今岡さんが言った。「段取り替え中に油圧系のトラブルが出て、3時間かけて計画を作り直しました。でも月明けてみたら、今度は作業員が2人病欠で……」

笠原工場長は腕を組んだ。「計画の修正に3時間。それ自体も問題だが、作り直した計画がまた月曜の朝に崩れるのが一番こたえる」

國分さんは静かに手を挙げた。「その”作り直し”、今は人の頭でやっているわけですよね。計画精度が70%というのは、逆に言えば3割が計画通りにいかないということです。毎週10件の緊急対応が発生している原因の根本は、そこにあるのではないでしょうか」

人間の計算速度には、限界がある

廊下から上村さんが顔を出した。「呼ばれてない会議に入るのも悪いが、聞こえてしまったよ」と言いながら椅子を引いた。

「俺が計画を担当し始めた30年前は品番が200もなかった。今は量産だけで400品番、SP品番まで入れると1,000品番だ。Excelで管理できる量じゃない」

今岡さんがうなずく。「私たちの計画作業は週200時間です。8人が週25時間ずつ計画に張り付いている。でも変動が起きるたびに、その計算を全部やり直さなければならない」

問題の本質はここにある。MPS(基準日程生産計画)は、需要・在庫・設備・人員・段取りというすべての制約を同時に考慮しながら、「いつ・何を・どこで・どれだけ作るか」を決める計画だ。変数が多ければ多いほど、人間が手作業で再計算するコストは指数的に増えていく。

「機械の故障、作業員の病欠、急な注文変更。この3つが重なっただけで、計画全体を組み直す必要が出る」と笠原工場長は言った。「それを3時間でやり切れたとしても、また翌日に変動が来る。人間の計算速度では、もはや追いつかない」

「副産物」という、静かな時限爆弾

國分さんが資料を広げた。「もう一つ、東海工場特有の問題があります。プレス工程のボトルネック工程についてです」

「左右一体取り金型の話ですね」と上村さんが渋い顔をした。

ウィンドウレギュレーターのプレス工程では、左ドア用と右ドア用の部品を同じ金型で同時に打ち抜く。つまり、左が1個必要になれば、右も必ず1個生産される。この「意図せず生まれる同時産出品」が副産物だ。

「需要は左右で同じとは限りません」と今岡さんが続けた。「日本は左側通行のため、運転席は右側です。駐車場での左側スペースは運転席から視界が取りにくく、助手席側・後部左側のドアを壁や障害物にぶつけやすい。サービスパーツの需要は左ドア側に偏ります。でもプレスでは必ず左右セットで作られる。結果として、右側のSP品番の在庫だけが積み上がっていく」

「現在の在庫金額は80億円です」と國分さんが数字を示した。「売上400億円に対して20%。この中に、副産物として積み上がった在庫が相当含まれているはずです」

笠原工場長が眉をひそめた。「それを人間が品番ごとに把握して、計画に反映するのは……」

「不可能ではないですが、属人的になります」とかみむらさんが首を振った。「ベテランが退職したら、そのノウハウも消える」

3ルートが揃わなければ、ラインは止まる

上村さんが工程表を指さした。「サブアッシーの話もしておかないといけない。金属・樹脂・電子の3ルートが全部揃って、初めて組み立てに入れる。どれか一つが遅れれば、全ラインが止まる」

金属ルートのプレス工程は段取りに最大60分かかる。樹脂ルートの射出成形は金型昇温まで含めると最大3時間。この2つのルートが、それぞれ異なるボトルネック工程を抱えながら、サブアッシーという合流点に向かって走っている。

需給バランスを取ろうとすると、3ルートを同時に調整しなければならない」と今岡さんが言った。「1ルートだけ最適化しても、別のルートが遅れれば意味がない。全体を同時に見る必要がある」

「それが、最適化AIが必要になる理由の一つです」と國分さんが落ち着いた声で言った。「人間が並列で3ルートを同時計算し、生産ロットサイズまで含めて最適解を出すのは、現実的には無理です」

日次再計画が、変動に追いつく唯一の方法

「では、具体的に何が変わるんですか」と笠原工場長が前に身を乗り出した。

「まず、計画サイクルを週次から日次再計画に変えます」と國分さんが説明した。「OEMからの内示は毎週変動します。月曜に立てた計画が水曜には古くなっている。だから毎日、最新の需要・在庫・設備状況をもとにMPSを更新する」

「それを人間がやったら、今の3倍の工数がかかる」と上村さんが言った。

「だから最適化AIが担います。安全在庫の設定も自動化します。翌週の需要を1日当たりで割り、在庫日数として設定する。需要が増えれば安全在庫の水準も上がり、需要が減れば自動的に下がる。欠品ゼロを守りながら、在庫金額を圧縮していく」

「セット品の問題は?」と今岡さんが聞いた。

セット品マスタを設定します。左ドア部品と右ドア部品のように、同時に生産される品番をペアとして登録する。一方に生産の必要が生じた日は、関連するすべてのセット品が自動的に同日生産になる。副産物を計画の”誤差”ではなく、計画の”前提条件”として組み込むんです」

計画の「精度」ではなく、「回復力」を問う時代

上村さんが静かに言った。「昔は計画を正確に立てることが腕の見せどころだった。でも今は、変動が起きた時にどれだけ早く立て直せるかの方が大事かもしれない」

笠原工場長は窓の外を見た。工場の敷地に、今朝も搬送台車が動いている。1,200人の仕事が、8人の計画担当者の判断の上に乗っている。

「3時間かけて作り直した計画が崩れるのは、作り方の問題じゃなくて、作り直す速度と頻度の問題なんだな」

「その通りです」と國分さんが言った。「計画精度70%を100%に上げようとするより、崩れた計画を数分で立て直せる仕組みを持つ方が、今の変動環境には合っている。最適化AIは、予測精度を上げるツールではありません。変動への需給バランス回復を、人間の何倍もの速さで繰り返し実行するツールです」

あなたの工場では、計画が崩れた後に立て直すまで、何時間かかっていますか。そしてその「作り直し」は、今週だけで何回目でしょうか。

タグ : MPS セット品マスタ ボトルネック工程 副産物 安全在庫 日次再計画 最適化AI 生産ロットサイズ 計画精度 需給バランス
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高橋邦芳 + Asprovaコンサルティングチーム + 生成AI