【ワイヤーハーネス工場のMPS 3】最適化AIが必要な理由
2026.07.17A1:生産計画・スケジューリング , S07:Auto MPS: 基準日程生産計画を最適化したい
「また計画が崩れた」——その言葉が、毎週繰り返される工場
月曜日の朝、笠原工場長は渋い顔でホワイトボードを見つめていました。
「先週のOEM内示、また変わってきた。エンジンハーネスのAX-3型、プラス200本。BK-7型はマイナス150本だ」
生産計画担当の今岡さんがノートパソコンを開きながら答えます。
「確認しました。今週の計画、作り直しですね。ボトルネックの④配線組立の負荷も一から見直さないといけません。おそらく3時間はかかります」
ベテランの上村さんが腕を組みながらため息をつきます。
「毎週これだな。機械が故障すれば計画が崩れる、作業員が病欠すれば崩れる、OEM内示が変わっても崩れる。今岡さんが直していると、また次の崩れが来る」
笠原工場長の工場では、エンジンハーネスを中心に約3500品番を生産しています。現場作業者は100名。工程は①電線切断から⑥導通検査まで6工程あります。そして最大のボトルネックは④配線組立——40名の作業者が担当し、段取り替えに45分かかります。
この工場で起きていることは、全国のワイヤーハーネス工場で起きていることと本質的に同じです。問題の核心は、計画を人間が「手で直し続けている」ことにあります。
OEM内示の変動が止まらない——「追いかけるほど遅れる」構造
営業の國分さんが資料を持って会議室に入ってきました。
「笠原工場長、申し訳ありません。OEM側から今週も仕様変更の連絡が入りました。AX-3型の仕向地仕様が一部変わるとのことで、オプション対応品を追加で50本お願いしたいとのことです」
今岡さんが眉をひそめます。
「50本追加ということは、材料の引当てを変えて、生産ロットサイズを調整して、④配線組立の順番を組み替えて……今岡がやると今日中には間に合わないかもしれません」
これが超多品種化の現実です。車種×グレード×仕向地×年式×オプションの組み合わせでSKUが爆発し、1日で生産できる品番数には物理的な上限があります。すべての品番を適切なタイミングで生産しようとすると、どこかで適正在庫切れが発生する。一方で、先読みして大量に作れば今度は過剰在庫になる。
「欠品を出さないように余分に作ると、在庫が積み上がる。かといって絞ると欠品になる。毎週この綱渡りです」と今岡さんは苦笑します。
上村さんがひと言、核心をついた言葉を言います。
「問題は、変動に対して計画が後手に回ることだ。毎週変わる内示を、3時間かけて人間が追いかけている。追いかけるほど遅れる、という構造になってる」
なぜ手作業の計画修正では限界があるのか
笠原工場長が問題を整理します。
「計画を直すのに3時間かかる。機械の故障、病欠、OEM内示の変更——これらが重なったとき、3時間どころか半日以上つぶれることもある。その間、現場は旧い計画で動いている」
これはどういうことを意味するのでしょうか。
生産計画は、「今の需要」「今の在庫」「今の生産能力」を同時に見ながら立てなければ意味がありません。ところが手作業では、1つの変化に対応するための計算に時間がかかりすぎる。計画を直し終えた頃には、また別の変化が起きています。
しかも3500品番という規模では、人間が全品番の需給バランスを頭の中で同時に把握することは不可能です。今岡さんのような有能な計画担当者でも、重点品番に注目するあまり、注目度の低い品番で静かに在庫切れが進む——これが現場で繰り返されるパターンです。
「今岡さんが頑張っているのはわかっている。でも、今岡さんが3500品番を毎日完璧に管理するのは、そもそも無理な話なんだ」と笠原工場長は言います。
解決策の核心——「毎日計画を作り直す」仕組み
上村さんが提案します。
「だったら、計画を毎日自動で作り直せる仕組みが要るんじゃないか。人間が3時間かけて直すのではなく、夜のうちにシステムが翌日の計画を出しておく」
これが日次再計画の考え方です。**基準日程生産計画(MPS)**において、変動への対応を「週次で人間が直す」のではなく、「毎日システムが動的に再計算する」構造に変える。
具体的に何を再計算するのか。今岡さんが整理してくれました。
まず、安全在庫の動的変更です。従来の安全在庫は固定値で設定されることが多いですが、これでは内示が変動したときに機能しません。品番ごとに「翌週需要の1日あたり需要数を1日分として算出する在庫日数」で安全在庫を設定し、需要が増えれば安全在庫も増やし、需要が減れば絞る。欠品ゼロを守りながら、平均在庫を圧縮するための仕組みです。
次に、生産ロットサイズの最適化です。需要量に連動してロットサイズを柔軟に変えることで、段取り時間45分のコストと在庫保有コストのバランスを毎日最適に保ちます。
「段取り時間が45分かかるから、なるべくまとめて作りたい。でも作りすぎると在庫になる。このジレンマを毎日最適な答えで解いてもらわないと、人間には限界がある」と上村さんが言います。
ボトルネック④配線組立の負荷平準化——月末に帳尻を合わせない
笠原工場長が核心を突く質問をします。
「負荷平準化の話だが、今うちがやっていることは何が問題なんだ?」
上村さんが答えます。
「月単位でしか負荷を見ていないことです。月末に帳尻を合わせようとするから、月末になって突然残業・休出が増える。月初から負荷を見通して、計画的に動けていない」
これが実態です。④配線組立の40名は工場最大のボトルネック。ここの負荷が月の後半に集中すると、作業者の疲労蓄積、品質ミス、欠勤増加という悪循環が生まれます。
解決策は、週単位・日単位で負荷を見通し、月初から平準化された計画で動くことです。具体的には、日々の需給バランスの計画(在庫上限・下限のコントロール)をもとに、生産計画の前倒しと後ろ倒しを動的に行います。そして2直(日勤/夜勤)シフトや休日出勤、先行生産を「月末の追い込み」としてではなく、「月初からの計画的な選択肢」として使う。
「月末に『やばい、間に合わない』と気づいてから動くのと、月初から『第3週に少し先行生産が必要』とわかって動くのとでは、現場の負担がまったく違う」と國分さんが言います。
最適化AIが必要な理由——計算量の問題
今岡さんが正直に打ち明けます。
「私が計画を立てるとき、全品番を均等に見ることはできていません。重点品番に集中すると、他がおろそかになる。3500品番を毎日、需給・負荷・ロットサイズ・安全在庫すべて考慮して最適化する——これは人間の計算量の問題です」
笠原工場長が頷きます。
「今岡さんの能力の問題じゃない。3500品番×6工程×毎日の変動、これを同時最適化しろと言われたら、どんなベテランでも無理だ」
これが最適化AIが必要な理由の本質です。
人間は優先順位をつけて考えます。それは適切な判断ですが、同時に「見落とし」を生みます。最適化の計算エンジンは優先順位をつけません。全品番を同時に、毎日、複数の制約条件(在庫上下限・ボトルネック負荷・ロットサイズ・段取り)を考慮した上で、実行可能な計画を出す。
「最適化AIは今岡さんの代わりじゃない。今岡さんが3時間かけてやっていた計算を、秒単位でやってくれるツールだ。今岡さんはその結果を見て、現場の実態と照らし合わせて判断することに集中できる」と上村さんは言います。
笠原工場長の問い——あなたの工場はどうですか
会議の最後に、笠原工場長が静かに言いました。
「うちは今まで、計画の精度を上げるために今岡さんを頼りにしてきた。でも本当に必要なのは、今岡さんが判断に集中できる仕組みを作ることだったのかもしれない」
毎週3時間、計画を作り直す時間。その3時間は、現場改善や品質管理ではなく、「変動への後追い作業」に使われています。そしてその後追いが追いつかないとき、欠品か過剰在庫かというコストが発生します。
あなたの工場では、生産計画の修正に毎週何時間使っていますか。その時間は、本来どこに使われるべきでしょうか。
次回【ワイヤーハーネス工場のMPS 4】では、最適化AIの導入した事例を解説します。
高橋邦芳 + Asprovaコンサルティングチーム + 生成AI
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