段取り時間を短縮する生産順序の決め方 生産スケジューラの使い方|冷間成形ばねのAI生産スケジューリング 3

2026.10.15A1:生産計画・スケジューリング , S03:納期遅れと段取りを同時に最小化したい

全5回の3回目です。前回は、工具交換と試し巻きによる段取り時間とコストの増加、特急対応、ロットサイズが定まらず在庫が増えること、コイリングと焼鈍炉の同期がとれず炉の前でばねが待つこと、という4つの課題を説明しました。今回は、この4つを同時に扱う考え方を取り上げます。金額は次の第4回で計算します。

冷間成形ばねのAI生産スケジューリング 第3回 インフォグラフィック

1台のコイリングマシンの例では、生産順序を組み替えるだけで段取り時間が120分から75分に短縮し、捨てるばねも40本から25本に減ります。生産順序の組み方で生じていた分を減らすことで、段取り時間は全工程で25%短縮できると見込みます。

1. 人が生産順序を決めるときの限界

この工場では、8台のコイリングマシンで1週間に約96ロットを流します。ロットが変わるたびに段取りをするので、ロットの数は段取りの回数と同じです。第2回で説明した3種類の切替の回数を足すと、段取りは1台で月48回あり、8台では月384回、1週間あたりでは約96回になります。

96ロットを1列に並べる順序だけでも96の階乗、約10の150乗通りあり、どのコイリングマシンに割り振るかを加えるとさらに増えます。計画担当者は、経験をもとに順序を1つ組み、段取りや納期に無理が見つかれば組み直す、という試行錯誤を重ねて1つの計画を決めます。約10の150乗通りのうち、その試行錯誤で実際に試せる順序はごく一部です。

どの順序が良いかは、前後の品番の組み合わせで決まります。同じ線径、同じ材質の品番を続けて流せばプログラム替えだけになり、炭素鋼とシリコンクロム鋼が交互になれば線材の掛け替えと炉の温度の切替が増えます。加えて、見込生産品の在庫の残り、受注生産品の納期、段取り工の空き、炉の温度の予定も同時に見る必要があります。

2. 最適化AIができること

生産計画を人の手ではなく計算で作るしくみを、生産スケジューラと呼びます。生産スケジューラのうち、守るべき条件を与えると、その範囲で最も良い生産順序を計算で探し出すものが最適化AIです。与える条件には、プログラム替えと工具交換の時間、試し巻きで捨てる本数、線材の掛け替えの時間、段取り工が2人であること、炉の温度を上げる時間と下げる時間、見込生産品の安全在庫、受注生産品の納期が入ります。これらの条件を制約条件と呼びます。

最適化AIが決めるのは、品番をどの設備で流すか、流す順序、1回につくる本数、前後の工程の着手時刻の4つです。前の2つを、それぞれ作業の設備への割付け、投入順序最適化と呼びます。下の表は、4つの要素と、それぞれが主に解決する第2回の課題を並べたものです。1つの要素が複数の課題の解決に寄与することもあり、対応はおおむねの目安です。

最適化の要素内容主に解決する第2回の課題
作業の設備への割付け同じ線径、同じ材質の品番を同じコイリングマシンに集め、8台の負荷をならす課題1 段取り時間とコストの増加
投入順序最適化安全在庫と納期を守りながら、同じ線径が続き、材質の切替が少ない生産順序を決める課題2 特急対応
ロットサイズの決定出荷の量、在庫の残り、安全在庫から、1回につくる本数を決める課題3 ロットサイズが定まらない
工程の同期炉の温度の予定に合わせてコイリングの完了時刻を決め、座研削の着手を炉の完了時刻に合わせる課題4 コイリングと焼鈍炉の同期

割付けでは、シリコンクロム鋼の弁ばねを決まったコイリングマシンに集めれば、ほかのコイリングマシンでは線材の掛け替えが起きません。そのうえで、一部の設備だけに負荷が偏らないようにならします。この調整を負荷平準化と呼びます。

工程の同期では、表のとおり、コイリングの完了時刻と座研削の着手時刻を炉の予定に合わせます。そのため、工程の間で待つ仕掛品が減り、製造リードタイムが短くなります。

最適化AIを使うと、計画を作る時間と管理の時間も減ります。計画を作る時間が減るのは、順序を組んでは組み直す試行錯誤を、人の代わりに最適化AIが行うためです。管理の時間が減るのは、安全在庫と納期を守れる生産順序がはじめから計画に入るためです。管理担当者が、安全在庫を下回りそうな品番や遅れそうな受注生産品を探して督促する回数が減ります。

3. 生産順序を組み替えると、何が起きるのか

(1) 同じ線径のロットを続けて流す

例として、1台のコイリングマシンで変速機のばねを2ロット、クラッチのダンパーばね(回転の振動を抑えるばね)を1ロット流す場面を考えます。どれも炭素鋼でつくるため、線材の掛け替えと炉の温度の切替はありません。2つの変速機のばねはどちらも線径3.0mmで巻き数だけが違うので、その間の段取りはプログラム替えの15分です。ダンパーばねは線径3.5mmなので、変速機のばねとの間の段取りは工具交換の60分です。

補充が必要になる時期が早いものから並べると、変速機のばね(巻き数8)、ダンパーばね、変速機のばね(巻き数10)の順になることがあります。下の2つの表は、この順と、組み替えた順を比べたものです。3つのロットを流す順に1行ずつ並べ、前のロットから切り替えるときの段取りを書いています。

組み替える前

流す順品番前のロットからの切替段取り時間捨てるばね
1番目変速機のばね(線径3.0mm、巻き数8)———
2番目ダンパーばね(線径3.5mm)線径が違うので工具交換60分20本
3番目変速機のばね(線径3.0mm、巻き数10)線径が違うので工具交換60分20本
合計——120分40本

組み替えた後

流す順品番前のロットからの切替段取り時間捨てるばね
1番目変速機のばね(線径3.0mm、巻き数8)———
2番目変速機のばね(線径3.0mm、巻き数10)巻き数だけが違うのでプログラム替え15分5本
3番目ダンパーばね(線径3.5mm)線径が違うので工具交換60分20本
合計——75分25本

1番目に流すロットの前の段取りは、どちらの順でも同じなので、表には入れていません。表のとおり、組み替えると段取り時間は45分短縮し、工具交換が1回減るため、捨てるばねも15本減ります。この45分は、段取り工をほかのコイリングマシンに振り向けられる時間になります。補充の時期の早い順に並べるのが最も安全な計画に見えますが、この例のように工具交換が増えて段取り時間が増加し、その分だけ後ろの品番の着手が遅れます。

(2) 4つの要件を同時に満たす

工具交換だけを見れば、同じ線径のロットをすべて続けて流すのが最短です。ところが、線径3.0mmのロットを長く続けると、その間は線径3.5mmのダンパーばねをつくれず、その在庫が安全在庫を下回ります。

人が順に決める場合は、まず欠品が近い品番と納期が近いオーダを前に置き、次にロットサイズを決め、最後に同じ線径と同じ材質がまとまるよう並べ替えます。最後の並べ替えで線径3.0mmの品番をまとめると、最初に前へ置いたダンパーばねが後ろにずれます。

ダンパーばねを元の位置に戻すと、今度は工具交換が増えて段取り時間が増加します。材質をまとめて炉の温度の切替を減らそうとすると、コイリングの順序がまた動きます。順に決める進め方では、この手戻りが終わりません。

最適化AIは、安全在庫、納期、段取り時間、ロットサイズの4つを、炉の温度の予定と段取り工の空きも含めて1つの計算の中で同時に扱います。そのため、ダンパーばねの在庫が安全在庫を下回らない範囲で、線径3.0mmの品番をできるだけ続けて流す順序を見つけます。

ゼロにはなりませんが、生産順序の組み方で生じていた分の段取り時間は短縮できます。ゼロにならないのは、品番が変わるたびにプログラム替えか工具交換が必要なためです。この連載では、段取り時間の削減率を全工程で25%と置きます。

4. 計画外の事象が起きたらリスケジュールする

計画どおりに進まない日は珍しくありません。コイリングマシンの故障で1台が止まる、線材の入荷が遅れる、補修用の急ぎのオーダが入る、などです。この工場では、計画担当者が約120品番の在庫と納期を見直して計画を作り直すのに半日かかり、その間、現場は前の計画のまま動きます。

最適化AIでは、止まった設備や新しいオーダを条件として入れ直せば、人が半日かけて作り直すより短い時間で新しい計画ができます。計算にかかる時間は品番の数や制約条件の多さによって変わり、数分以上かかることもあります。この計画の作り直しをリスケジュールと呼びます。短い時間でリスケジュールできれば、残業で補う以外に、生産順序を組み替える、ほかのコイリングマシンに振り替えるなどの対応を選べます。

できあがった計画は計画担当者が確認し、現場で守っている決まりに合わない箇所だけを直します。最後の判断は人が行います。

まとめ

第2回で説明した4つの課題は、線径、材質、段取り工の人数、炉の温度、ロットサイズを同時に見ないまま生産順序を決め、督促が入るたびに特急対応で組み替えていることから起きていました。最適化AIは、設備への割付け、投入順序、ロットサイズ、工程の同期の4要素を1回の計算で決めます。そのため、工具交換を減らすと欠品が出て、欠品を防ぐと工具交換が増える、という手戻りを人が繰り返す必要がなくなります。コイリングマシンを買い足したり改造したりする投資をせずに、ボトルネックであるコイリングの段取り時間と、試し巻きで捨てるばねを減らせます。

次回は、段取り時間の25%短縮と、計画と管理の時間削減が、1年でいくらになるのかを計算します。あなたの工場で、先月コイリングの工具交換が何回あったか、記録は残っているでしょうか?

解説動画

この回の内容を、動画でも説明しています。

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段取り時間の25%短縮は、1年でいくらになるのか。6つのコストダウン項目を計算式で積み上げると、年間Return値は13,599,000円。前提値を自社の数字に差し替えれば、同じ式で検算できます。

タグ : リスケジュール 制約条件 投入順序最適化 最適化AI 段取り時間 短縮 生産スケジューラ 生産スケジューリング 生産管理 生産順序 負荷平準化