熱処理の効率化は、膨大な組み合わせ問題を解くこと

2022.06.08S2:炉や槽の詰込みを最適化したい

アスプローバ社では、生産スケジューリングの困り事を解決するソリューションセミナーを開催しています。そのうち「炉や槽の詰込みを最適化するスケジューリング~作業の組み合わせ探索~[S2]」について、概要と感想を記します。こうしたバッチ処理の工程の効率を向上させるには、多数の組み合わせ候補の中から「充填率」が高いものを選ぶ必要があります。生産スケジューラー「Asprova」(アスプローバ)のオプション機能「Solver」は、大量の計算による反復改善により、さまざまな制約条件を満たしたうえで、充填率が高くなる生産計画を短時間で提示することができます。

熱処理(バッチ生産)のスケジュールとは

今回のセミナーは熱処理がテーマです。アニメの舞台は、車の部品に使う金属の熱処理を手掛ける「未来製作所」です。生産管理部のエース青木さん(32)が、悩んでいます。緊急注文や、数の変更などに対応しながら生産計画を作るのですが、表計算ソフトでは複雑な操作が必要です。新人に任せようと思ってもお手上げ状態。青木さんは恋人との休暇も、まともにとることができません。それなのに、発注元の高橋さんは「サプライヤを変更しようかな?」とプレッシャーをかけてきます。

なぜそんなに難しいのでしょうか。「熱処理」の目的は、素材に新たな特性を与えることです。メインの工程で炉を使うため、ベルトコンベアに代表される流れ作業とは違う「バッチ処理」(まとめ処理)独特の問題が生じてきます。

バッチ処理のわかりやすい、身近な例として、パンをオーブンで焼くのを考えてみましょう。パン生地を成形・発酵させたものをトレーに並べてオーブンで焼きます。トレーに並べる数がいくつでも、焼く時間はかわらない。となれば、トレーいっぱいに並べた方が生産効率が高いですが、提供タイミングや一緒にいれてもよいかなども考えながら、最も効率的にまとめる方法を編み出すのが大変なのです。

熱処理(バッチ生産)のスケジュールの課題

熱処理の効率を上げるキモは、炉の能力をフル活用できるよう「充填率」(じゅうてんりつ)を高めることです。これがアニメでわかりやすく解説されています。炉に入れる金属板が4枚、2枚、3枚、1枚(合計10枚)、と流れてきます。炉が一度に5枚処理できる場合、順番に入れていくと3回に分けなくてはなりません。しかし4枚+1枚、2枚+3枚と、5枚ずつまとめて炉に入れれば、2回ですみます。充填率は100%となり、短時間の稼働で工程を終えることができます。

現実には、同時に入れる部品は、同じ形のものとは限りません。どの形とどの形なら一緒に入れることができるのか、あるいは一緒にしてはいけないものがあるのか、制約条件は多数出てきます。

部品の種類が増えると、その組み合わせの数は恐ろしい勢いで増えていきます。5つのものから2つを選ぶ組み合わせは、5×4÷2=10通りです。では50個のものから20個を選ぶ組み合わせはいくつあるでしょう。50×49×48×……=47,129,212,243,960という式になります。47兆ですね。この数を青木さんから知らされて、新人の斎藤さんはびっくり仰天。この数になると人間では対処できないといっていいでしょう。

熱処理の膨大な組み合わせを高速に解くSolver

それを解決するのが、生産スケジューラーのオプション機能「Solver」(ソルバー)です。さまざまな組み合わせによる充填率を猛烈な勢いで計算し、最適な状態から離れた度合い=ペナルティ=を算出し、ペナルディの最も小さいものから示します。納期をはじめ、工場が課されている多くの条件のもと試行を繰り返し、最もよい組み合わせを求めていきます。

さて、導入の結果、新人の斎藤さんも生産計画が立てられるようになりました。青木さんもフィアンセと沖縄での休暇を楽しんでいます。「やっぱり青木さんお願いします」という電話もかかってきません。充填率の向上は省エネになりますから、昨今のCO2排出削減の潮流ともマッチして社会貢献につながる、と感じました。

Solverは顧客の要望を反映させるため、アスプローバ社と顧客とが共同で開発します。打ち合わせ、試作、検証を短い期間で繰り返し(アジャイル開発といいます)、その後に製品の提供となります。アジャイル開発はアスプローバ社は無償で行うので、仲介する販売パートナーのコンサルタント料だけを支払ってもらうということです。顧客は高いリスクをとらなくてもすむわけです。

熱処理で開発されたバッチ処理の効率化は、他の分野にも応用できることも示唆されています。研磨工程やバッテリーの充電槽工程などです。工場が抱える問題の解決のため、試してみるのも一法ですね。

 

  • 熱処理の詳細情報はナレッジセンターにてご覧いただけます。(会員登録が必要です)

    もっと詳しく見る

技術革新や予測不能な外的要因に迅速に対応できるよう製造業務においては、より一層生産プロセス全体の改善と生産効率向上が求められています。 データやデジタル技術を活用し、生産リードタイム短縮や在庫・コスト削減などを実現する製造現場におけるDX推進の一つとして、生産スケジューラの導入がカギとなります。 次のページでは、生産スケジューラ導入によって具体的にどのような業務改善が実現したのか導入企業の事例もご紹介しています。ぜひご参考にしてください。 img_banner_aps
タグ : 効率化 熱処理工程