【ワイヤーハーネス工場のMPS 4】他社事例:最適化AIの導入

2026.07.17S07:Auto MPS: 基準日程生産計画を最適化したい

■ セミナー会場で聞いた「あの工場の話」

笠原工場長がその勉強会に参加したのは、どこか義務感からでした。昨今、「AI」「最適化」「DX」という言葉があちこちで飛び交い、うちにはまだ早い——そう思いながらも、同業他社の声が気になっていたのです。

登壇したのは、高電圧(HV)ハーネスを主力とするある工場の生産管理担当者・佐藤さん。売上1,000億円規模、月産6億セット、現場作業者80名、品番数3,000SKU——数字を聞いた瞬間、笠原さんは思わず背筋を伸ばしました。「うちより小さい規模だ。でも、品番数はほぼ同じだな」。

■ 導入前の「あるある」が、刺さった

佐藤さんの話は、まず「導入前の状態」から始まりました。

計画作成担当者が2名いましたが、毎週月曜日は丸一日が調整でつぶれていました。お客様からの内示変更、仕入れ先への連絡、現場への指示変更——その繰り返しです。PSI計画は作ったそばから陳腐化し、計画精度という概念そのものが存在していない状態でした」

これは笠原さんの工場でも、長年の「当たり前」でした。毎週の生産会議では、欠品リストと残業申請書が並んで配られ、その対応に議論の大半が費やされる。ベテランのかみむらさんが「これが製造業というもんだ」と言うのを聞くたびに、どこか納得しながらも、違和感がぬぐえなかった。

欠品が出ると、緊急外注をかける。すると今度はコストが跳ね上がる。それを抑えようと在庫を積むと、今度は滞留が起きる。この負のループから抜け出せなかった」と佐藤さんは続けました。

■ 最適化AIが変えた「計画の根っこ」

佐藤さんが語った変化の核心は、「計画の作り方」そのものが変わったことでした。

従来の基準日程生産計画は、担当者の経験と勘に頼る部分が大きく、日単位(バケット)の計画は実態とズレながら運用されていました。最適化AI導入後は、需給バランスを日単位で動的に計算し直す仕組みが稼働するようになりました。

「重要なのは、安全在庫を固定値ではなく在庫日数で設定し直したことです。3,000SKUそれぞれについて、需要の波形を読んで安全在庫の水準が毎週自動更新される。過剰に積んでいた品番が一目でわかるようになりました」

動的最適化という言葉を、笠原さんはそれまで抽象的にしか理解していませんでした。しかしこの説明は腑に落ちました。「在庫日数で持つ」——それだけのことが、3,000品番で手動管理されていない現実を変えるのだと。

また、負荷平準化の話も印象的でした。従来は月末に生産が集中し、月初は閑散——というリズムが常態化していました。最適化AIは、ブリッジ生産(先行生産による山崩し)の計画を自動で提案し、現場作業者の稼働を平準化します。「月末残業が週20時間あったのが、12時間前後に落ち着いた」という具体的な数字が出てきたとき、会場がざわめきました。

■ 「調整ロス」という、見えていなかったコスト

笠原さんがとりわけ刺さったのは、「調整ロス」という概念でした。

生産計画の変更が発生するたびに、担当者は仕入れ先に電話し、出荷先に連絡し、現場にメモを配りに行く。この時間は生産原価に乗らない「見えないコスト」です。いまおかさんの工場では、計画変更業務と対外調整業務を合わせた間接工数を試算したところ、月間で担当者1人あたり約60時間が費やされていたことが判明しました。

最適化AI導入後、その数字は半減。「担当者が計画変更の連絡をしている時間が、本来の計画立案・分析の時間に変わった」と佐藤さんは言います。計画精度が上がることで、緊急対応そのものが減るという好循環です。

営業担当の國分さんがあとで笠原さんに耳打ちしました。「工場長、これ、うちの調整業務と全く同じ構造ですよね」。笠原さんは黙ってうなずきました。

■ KPI改善結果(最適化AI導入前 → 導入後)

対象工場:HVハーネス専業 / 品番数 3,000SKU / 現場作業者 80名 / 計画担当者 2名
基準日程計画は日単位(バケット)で運用

KPI項目改善結果改善の主な要因
欠品件数ゼロ維持需給バランスの動的最適化により全品番の適正在庫をキープ
在庫水準25%削減安全在庫を在庫日数で設定し需要に応じて動的変更、過剰在庫を防止
外注費20%削減計画精度向上により反応的な緊急外注の発生を大幅に抑制
残業コスト20%削減ブリッジ生産負荷平準化により作業者の残業・休日出勤が減少
調整ロス(間接工数)50%削減計画変更・仕入れ先/出荷先との対外調整業務など間接コストを大幅削減

数字が語る「導入後の姿」

スライドを見ながら、笠原さんの頭の中で自然と計算が始まっていました。

残業コストを20%削減。自社の現場作業者120名、時間単価2,500円、月間平均残業20時間で試算すれば——月600万円の残業費の20%は120万円。年間1,440万円。その数字は、おそらく導入費用の議論に直結してくるはずです。

外注費20%削減にしても同じです。緊急外注は通常外注の1.5〜2倍のコスト単価がかかることを笠原さんはよく知っていました。「緊急じゃなければもっと安く頼めるのに」——それが減るということの価値は、数字よりも深いところにあります。現場の信頼関係、取引先との関係、そして何より担当者のストレスが変わる。

調整ロス50%削減の数字は、担当者・いまおかさんへの目線が変わったことを意味します。毎月60時間費やしていた調整業務が30時間になれば、残りの時間で何ができるか——PSI計画の精度検証、需要変動の先読み分析、本来の「計画者」としての仕事ができるようになるのです。

「計画担当者が2人いても、計画業務に集中できているのは半分の時間だった。それが変わる」と佐藤さんは締めくくりました。

■ 「欠品ゼロを維持」の重さ

会場でひとつだけ、さらっと流れそうになったのに笠原さんが強く引っかかった表現がありました。「欠品ゼロ」ではなく、「欠品ゼロを維持」という言葉です。

欠品ゼロを一時的に達成することは、在庫を積み増せば誰でもできます。問題は、それを維持しながら在庫を削減できるかどうかです。いまおかさんの工場では、需給バランスの動的最適化により、全3,000品番の在庫水準をリアルタイムで適正化することで、この矛盾を解消しました。

欠品もなく、在庫過剰もない——この状態こそが、笠原さんが長年「理想だが現実にはない」と思っていた姿でした。

■ 帰りの電車で、笠原さんが考えたこと

勉強会の帰路、笠原さんはスマートフォンのメモに数字を書き込んでいました。

調整ロス削減50%。担当者2名×月60時間→30時間。在庫削減25%。残業20%減。外注費20%減。数字ごとに「自社に当てはめると?」という問いが続きます。

上村ベテランが「うちはうちのやり方がある」と言うのも理解できます。でも、同じ規模・同じ品番数・同じ2人体制の工場が、これだけの変化を遂げている事実は、否定できません。

「仕組みが変われば、人が変わる」——佐藤さんの最後のひと言が、静かに残っていました。


あなたの工場では、毎週の調整業務に何時間費やしていますか? その時間が半分になったとき、計画担当者は何に向き合えるようになるでしょうか。

次回【ワイヤーハーネス工場のMPS 5】では、最適化AIのROIはどう試算するかを解説します。

タグ : PSI計画 ブリッジ生産 動的最適化 基準日程生産計画 安全在庫 欠品ゼロ 計画精度 調整ロス 負荷平準化 需給バランス
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