【電動アクチュエータのAI生産スケジューリング 4】ROI試算 ~ 段取り・在庫・設備稼働の改善効果を、自社の数字で試算する

2026.07.08A1:生産計画・スケジューリング , S08:金型や治具を使う工程で納期遅れと段取りを最少化したい

前回、生産スケジューラという解決策の方向性が見えました。けれど経営の現場では、必ずこう問われます。「で、いくら儲かるのか」。第4回は、その問いに数字で答えます。投資額の話には踏み込まず、得られるリターン(Return)だけに絞って、ひとつずつ積み上げて確かめていきましょう。

全5回(①基礎知識 → ②課題 → ③解決策 → ④ROI試算 → ⑤失敗しない導入)の第4回。第2回で見た段取り・残業・在庫の悩みが、最適化AIでいくらのリターンに変わるのか。ここがシリーズの山場です。

先に結論 ―― 年間およそ3,312万円が戻る

細かい計算に入る前に、着地点を示します。本コラムの試算では、最適化AIの導入で年間およそ3,312万円のリターンが見込めます。内訳は、段取りまわり(作業費・資材電力)、計画作成、設備の稼働回復、そして第2回で触れた在庫の圧縮を加えた五項目。前の四つは「時間×単価」で、在庫だけは「金額×率」で出します。これから、この数字がどこから来るのかを、誰でも検算できる形で確かめていきます。

試算の前提 ―― あなたの工場の数字

試算は、前回までに描いてきた電動アクチュエータメーカーの数字を使います。まず、出発点となる前提を確認しておきましょう。

項目前提条件
対象設備NC旋盤・MC・複合加工機・組立ライン 32台
使用時間単価5,200円/時(止まると失う1時間あたりの価値)
作業者 / 計画担当者32人 / 4人
扱う品番数620品番
1台あたりの段取り時間25時間/月(32台で 800時間/月)
計画作成時間100時間/月・人(4人で 400時間/月)
平均在庫金額1.8億円(部品・仕掛品・完成品。年間保管コスト率 16%)

計算式 ―― 同じ型で出す

リターンの出し方は、性質ごとに二系統に分かれます。段取りや計画作成、設備の稼働といった「時間で減るもの」は、削減できる時間に1時間の価値(単価)を掛け、12か月分にします。共通の型と、月の削減時間を決める2つの式を、まとめて並べます。

区分計算式結果
共通の型年間リターン = 月の削減時間 × 単価 × 12
段取り削減時間設備台数32 × 段取り時間25 × 段取り削減率20%月160時間
計画削減時間計画担当者4 × 計画作成時間100 × 計画作成時間削減率40%月160時間

もう一系統が、在庫です。在庫は「時間」ではなく「金額」で寝ているお金なので、圧縮できた在庫金額に、それを抱えることで毎年かかっていた保管コスト率を掛けて出します。電動アクチュエータは車種別の専用部品が多く在庫が膨らみやすいぶん、ここが効きます。この在庫削減も含めて、五つの効果を次の一つの表にまとめます。

五つの効果を、ひとつの表で

段取りの削減は、人の時間・資材や電力・止まっていた設備、という三つの価値を同時に生みます。これに計画作成と在庫圧縮を加えた五項目を、一つの表で並べます。①〜④は「時間×単価×12」、⑤だけは「金額×率」です。

項目計算式年間リターン
① 段取り作業費(残業相当)160h × 3,300円/時 × 12634万円
② 段取りコスト(資材・電力)160h × 1,200円/時 × 12230万円
③ 計画作成(担当者の人件費)160h × 3,800円/時 × 12730万円
④ 設備費(設備の稼働回復)160h × 5,200円/時 × 12998万円
⑤ 在庫削減(寝た資金・保管費)1.8億 × 25% × 16%720万円
合計3,312万円

年間削減額合計 約 3,312万円/年

※ ①と②は同じ160時間でも単価が違います。人件費(残業)と資材・電力という性質の違う費目を分けて数えることで、二重計上を避けています。④は止まっていた設備が動けるようになった価値で、①の人の時間とは別に数えます。⑤の在庫だけは時間ではなく「圧縮できた在庫金額に、毎年かかる保管コスト率を掛けた額」で、段取りや設備とは重複しません。

この数字の読み方 ―― 「本当に減る額」を見極める

ただし、五つすべてが同じ重みではありません。②段取りコスト(資材・電力)は変動費で、使った分だけ確実に現金が減る、最も堅い効果です。①段取り作業費と③計画作成の残業代も変動費的で、残業が減れば割増人件費が実際に下がります。⑤在庫削減も、寝かせていた資金と保管・管理の費用が実際に軽くなる、現金に近い効果です。ここまでは、財布から出ていくお金が確かに減るリターンです。

一方、④設備費は固定費。設備が動けるようになった価値であって、動けるようになっただけでは現金は増えません。空いた時間で新たに受注して初めて、利益に変わります。変動費分(①②③⑤)を堅い効果、固定費分(④)を伸びしろと捉えるのが、誠実な読み方です。

削減の正体 ―― 「作業者1名・設備1台分」が浮く

では、この削減は現場で何台分・何人分にあたるのでしょうか。段取り作業の削減は月160時間――これは作業者およそ1名分の働き(月稼働160時間換算)にぴたりと相当します。設備の稼働回復も月160時間で、設備およそ1台分の稼働に当たります。つまりこの改善は、作業者1名・設備1台分の余力を生み出すのと同じことなのです。増員や増設を考える前に、まず取り戻せる余力がここにあります。

需要が増えたとき ―― 「同じ人と設備で、もっと作れる」

この余力は、受注が伸びる局面で力を発揮します。最適化AIは、同じ人員・設備のままでも、こなせる生産高(スループット=単位時間あたりの生産量)を引き上げる力になります。残業を増やさず、外注に頼らず、人を増やさず、設備を買い足さずに、需要の伸びを受け止められる――増産を、増員や設備投資ではなく計画の質で吸収するのです。

これは二重の意味で効きます。ひとつは、増えがちな残業費・外注費を抑えられること。もうひとつは、本来なら必要になる人員の増員や設備の増設をしなくて済むことです。需要が伸びるほど、この「増やさずに作れる」力が、そのまま利益の差になって表れます。

さらに、いま納期を守るために払っている見えない代償も忘れてはいけません。遅れを取り戻す緊急の残業、現場を追いかける督促の工数、間に合わせの特急輸送費。督促はかえって現場の段取りを乱し、効率を落とします。最適な生産スケジュールで納期が安定すれば、こうした追加コストの多くも不要になります。

まとめ ―― 数字は、議論を動かす

感覚で語られてきた損失を、誰でも検算できる式に乗せれば、年間およそ3,312万円という具体的な数字になりました。段取り・計画・設備は「時間×単価」、在庫は「金額×率」――性質に合った二つの式で積み上げたのがポイントです。大切なのは、この数字を自社の前提で置き換え、変動費と固定費を見極めて、堅く語れるようにすることです。

あなたの工場の32台は、いま月に何時間、段取りで止まっていますか。そして倉庫には、いくらの在庫が眠っているでしょうか。その時間と金額を式に乗せたとき、投資の判断を後押しする数字になっているでしょうか。

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