生産計画: 大日程計画/中日程計画/小日程計画
2025.09.17A1:生産計画・スケジューリング
目次
前書き
生産計画は、工場の活動全体を司る「司令塔」です。適切な生産計画は、在庫削減、納期遵守率向上、そして利益増大に直結します。しかし、需要変動や設備のトラブル、生産の遅れなどの計画と実績のズレが発生し、計画通りに進めることは容易ではありません。本記事では、生産計画を「大日程計画」「中日程計画」「小日程計画」の3つの時間粒度の階層にわけ、それぞれの役割を説明します。最後に生産スケジューラAsprovaとの関係も解説させていただきます。
生産計画(大日程計画・中日程計画・小日程計画)
生産計画を「大日程計画」「中日程計画」「小日程計画」の3つの階層に分けて考えるのは、時間軸の粒度に応じて、それぞれの階層で最適な意思決定を行うためです。
これは、旅行の計画を立てるのと似ています。まず大まかな枠組みを決め、そこから順次詳細を詰めていくプロセスです。
- 大日程計画: 「今年の夏休みはヨーロッパへ行こう」と決めます。行き先、予算、日数を大まかに決めます。これは製造業の経営計画そのものです。
- 中日程計画: 「日毎の訪問先を決め、航空券やホテルを予約しよう」という段階です。生産計画では、日毎・製品毎の生産数を決めることに相当します。
- 小日程計画: 「明日は午前中にA美術館へ行き、午後はB公園を散歩し、夜はCレストランで食事をしよう」と、1日の詳細なスケジュールを立てます。これは、工場で「どの機械で、誰が、何時何分から何時何分まで、どの作業するか」を決めることに相当します。
このように、時間軸の異なる計画を段階的に具体化することで、無理なく精度の高い計画を立てることができます。
計画決定後、天候変化や交通機関の遅延など不測の事態が生じた場合でも、大日程、中日程には影響させずに、小日程のみを変更(リスケジュール)するだけで、計画の変更が可能です。
生産スケジューリングでは、膨大な要素が複雑に絡み合うため、計画の階層化は自然で有効な選択肢と言えるでしょう。
大日程計画
■目的
大日程計画の目的は、1年〜数年先を見据えて、生産に関する大きな方針を決めることです。これにより、会社全体の資源(ヒト・モノ・カネ・情報)をどの程度投入するかを明確にします。
- 販売計画: 営業部門からの販売予測に基づき、販売数、売上・利益額を計画します。
- 製品開発計画: 市場のニーズや競合の動向を踏まえ、新製品の開発や既存製品の改良計画を作成します。
- 設備投資計画: 新製品の生産や生産量増加に対応するため、どのような設備をいつ導入するかを計画します。
- 人員計画: 生産量に応じて、必要な人員の採用や育成、配置転換などを計画します。
- 外注計画: 自社だけで生産能力が不足する場合、どの工程をどの協力会社に委託するかを計画します。
- 資金計画: 設備投資や人員確保に必要な資金の調達方法や、運転資金の見通しを立てます。
■担当部署、計画期間、タイムバケット、品目の粒度
- 担当部署: 経営層や経営企画部、生産管理部の上層部が担当します。
- 計画期間: 1年〜5年程度です。
- タイムバケット: 「四半期」や「月」単位で、大まかに設定されます。
- 品目の粒度: 個別の製品ごとではなく、「製品グループ」や「製品ファミリー」といった大ぐくりで計画します。
■インプット
- 経営目標 (売上、利益率)
- 長期の需要予測、市場動向
■アウトプット
- 製品(グループ)ごとの月毎または四半期毎の販売計画
- 必要な設備、人員、資金の大枠
- 設備投資計画、技術開発ロードマップ、資金計画
■アウトプットを活用した次のステップ
大日程計画のアウトプットは、各部門の具体的なアクションプランの基盤となります。たとえば、
生産管理部は、中日程計画を作成します。
人事部は、人員計画に基づき採用活動を開始します。
経理部は、資金計画に沿って資金調達の準備を進めます。
中日程計画
■目的
中日程計画は、製品を「いつ」「どれだけ」生産すれば、在庫を適切に保ちながら顧客の要求に応えられるかを計画します。以下の計画を作成します。
- 在庫計画: 製品や部品が適切な在庫水準を維持できるよう、在庫量MIN, MAXなどを決定します。
- 基準生産計画(MPS: Master Production Schedule): どの製品を、いつまでに、いくつ生産するのかを計画します。
- 資材調達計画(MRP: Material Requirements Planning): 基準生産計画(MPS)に基づき、必要な部品や原材料の種類と量を算出し、手配すべき時期を計画します。
- 工数計画: 生産に必要な作業時間(工数)を算出し、生産能力に対する過不足を評価します。
- 人員計画: 各生産ラインや工程に必要な人員を、日単位で割り当てる計画を策定します。
- 外注計画: 自社の生産能力を超える部分や、専門的な加工が必要な部分について、外注先への発注計画を立てます。
■担当部署、計画期間、タイムバケット、品目の粒度
- 担当部署: 生産管理部が中心となって立案します。
- 計画期間: 3ヶ月〜1年程度が一般的です。
- タイムバケット: 「日」単位となり、より具体的な計画となります。
- 品目の粒度: 製品グループから「個別の製品(SKU:Stock Keeping Unit)」単位へと、より細かくなります。
■インプット
- 大日程計画: 製品毎の販売計画
- 現在の在庫量(製品、半製品、部品)
- 製品毎の在庫MIN, MAX
- 生産ラインごとの生産能力
- 部品表(BOM: Bill of Materials)
■アウトプット
- ライン毎・製品毎・日毎の生産数
- 必要な部品・原材料の日毎の所要量
■アウトプットを活用した次のステップ
- 生産管理部門: 小日程計画を作成します。
- 製造現場: 原材料・人員・設備を確認します。不足時は関連部門と連携して事前に解決します。
- 購買・調達部門: 計算された部品・原材料の所要量に基づき、発注業務を行います。
小日程計画
■目的
中日程計画で決められた、製品毎・日毎の生産数を、さらに「どの機械で、誰が、何を、何時何分から作業するか」というレベルまで詳細化します。現場の資源(設備、人、治具など)を最大限に活用し、効率的かつスムーズに生産する計画を作成します。これにより、納期遵守、生産性向上、段取り時間削減といったメリットが生まれます。
■担当部署、計画期間、タイムバケット、品目の粒度
- 担当部署: 生産管理部や、製造現場のリーダー。
- 計画期間: 1週間から数か月。
- タイムバケット: 「時」や「分」単位となり、非常に細かいスケジュールとなります。
- 品目の粒度: 「製造オーダー」や「ロット」単位で、個別の作業を管理します。
■インプット
- 中日程計画: 製品毎・日毎の生産数。
- 現在在庫: 製品、仕掛品、部品の現在在庫量。
- マスタデータ:
- 工順マスタ (製品をつくるための作業手順)
- 設備マスタ(どの設備で何ができるか、サイクルタイム)
- 副資源マスタ(金型、治具など)
- 設備や副資源のカレンダー
- 前後依存段取り時間(例:色の薄い製品から濃い製品へ切り替える際の段取り時間など)
- 作業者のスキルとシフト情報
■アウトプット
- 作業指示: 製造現場の作業者一人ひとりに対し、いつ、どの作業を行うべきかを具体的に指示します。
- 必要な原材料の出庫指示
■アウトプットを活用した次のステップ
- 製造現場: 作業者は作業指示書に従って作業をします。
- 営業部門: 精度の高い完了時刻がわかるため、顧客へ正確な納期回答ができます。
まとめ
項目 | 大日程計画 | 中日程計画 | 小日程計画 |
担当部署 | 経営層、経営企画部 | 生産管理部 | 生産管理部、製造現場 |
計画期間 | 1年~5年 | 3ヶ月~1年 | 1週間~数ヶ月 |
タイムバケット | 四半期、月 | 日 | 時、分 |
品目の粒度 | 製品グループ | 個別製品(品番) | 製造オーダー、ロット |
インプット | 経営目標、長期販売予測 | 大日程計画、在庫、生産能力、部品表 | 中日程計画、在庫、各種マスタデータ |
アウトプット | 月次の販売目標数 | 日次の生産数、部品所要量 | 設備・作業者ごとの作業指示 |
次のステップ | 各部門の事業計画、中日程計画の策定 | 小日程計画の策定、購買への発注指示 | 製造現場での作業開始、営業への納期回答 |
🔍さらに深掘りしましょう>>>基準日程生産計画(MPS:Master Production Schedule)
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