基準日程生産計画(MPS:Master Production Schedule)
2025.09.17A1:生産計画・スケジューリング
目次
MPS(基準日程生産計画) とは
MPSは生産活動全体の進むべき道を示すマスタープランであり、工場の「司令塔」の役割を果たします。マーケットからの需要と、工場の生産能力の間に立ち、そのギャップを考慮しながら「何を、いつ、いくつ生産するか」を決定します。これにより、勘や経験に頼った場当たり的な生産をなくし、データに基づいた的確な生産計画によって、受給バランスのとれた効率的な生産活動を実現します。
MPSの課題
■需給バランス
最重要課題は 需給バランス の調整です。市場の需要は常に変動しており、急な大口受注や、突然のキャンセルなど、予測が難しい変化が頻繁に起こります。
- 需要が多すぎるとき:欠品が発生し、販売機会を逃してしまいます(機会損失)。
- 需要が少なすぎるとき:過剰在庫を抱え、保管費用や品質劣化のリスクが高まります。
MPSは、こうした需要の変動に対して、日々の生産量を調整し、欠品や過剰在庫を防ぐ役割を担います。急な変化にも対応できる、強固な生産体制の土台となります。
■生産の平準化
生産量を需要の波に完全に合わせようとすると、工場の稼働に大きなムラが生じます。ある週は残業や休日出勤でフル稼働なのに、次の週はラインが止まってしまう、といった状況は非効率です。
生産の平準化 とは、生産量をできるだけ一定に保ち、工場のリソース(人員、設備)を効率的に活用することを目指す考え方です。
- ライン間の平準化:複数の生産ラインの負荷が均等になるように調整します。
- 時間方向の平準化:各ラインの日毎の生産量を平準化します。
- 製品毎の平準化:製品毎の生産量の合計を平準化します。
平準化により、従業員の負担が軽減され、残業コストを削減し、設備の長寿命化や品質の安定にも繋がります。
■在庫の適正化 (在庫MIN, 在庫MAX)
在庫過多ならばキャッシュフローを悪化させ、過少ならば販売機会(売上)を失う、企業の収益に直結する重要な課題です。
製品毎ごとに在庫のMIN、在庫MAXを設定し平準化することで、需要変動や突発的なトラブルに対応し、欠品と過剰在庫の両方を防ぎます。
そのために不可欠なのがライン毎・日毎・製品毎のロットサイズ(生産数)の決定です。これは、巨大なパズル解きのようで、人間が解くのは困難です。近年では、最適化AIによって最適なロットサイズを求めることが可能です。
■納期回答
お客様にとって「注文した製品がいつ届くか」は非常に重要です。信頼性の高い納期回答は、企業の信用を大きく左右します。
精度の高いMPSがなければ、営業担当者は「たぶんこのくらいで納品できると思います」といった曖昧な回答しかできません。MPSによって、生産能力やリソースの空き状況が明確になっていれば、実現可能な納期の根拠をもって、迅速かつ正確に回答することができます。
インプット
精度の高いMPSを立案するためには、元となる正確な情報(インプット)が必要です。
■販売計画(需要)
「お客様が何を、いつ、どれだけ欲しがっているか」という情報です。過去の販売実績や市場のトレンド、営業部門からの販売計画が基本となります。
■現在在庫
計画を立てる時点での製品毎の在庫量です。現在庫を正確に把握することで正味所要量を計算できます。
■生産の条件
- 生産可能期間: 工場のカレンダー情報。祝日やメンテナンス日など、生産ができない日や曜日を考慮します。
- タイムフェンス: 「直近の1週間は変更してはいけない」といった計画を固定する期間です。計画が頻繁に変わると現場が混乱するため、資材発注などが確定する期間は計画を固定し、安定した生産活動を保証します。
- 生産可能ライン: その製品をどの生産ラインで作れるか。
- 製造能力: 1日あたり、1時間あたりにどれだけ生産できるかという能力。
- 在庫MIN/MAX: 製品毎の在庫の最小値と最大値を数量または日数。
- ロットサイズMIN: 1回の生産指示で製造する単位の最小値。
アウトプット
■MPS(ライン毎・製品毎・日毎の生産数)
「どの生産ラインで、どの製品を、何月何日に、いくつ生産する」という、具体的で実行可能な生産計画です。この計画があることで、製造現場は何をすべきかが明確になり、資材部門は必要な部品を計画的に手配できます。
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