ナショナル自転車

スポーツ自転車を見込生産から受注生産に切換え成功した。そこには、顧客満足度というSCMの基本コンセプトがある。


 米国のハーバードビジネスレビューに紹介されていた、日本の事例である。パソコンのデルコンピューター社と同じようにスポーツ自転車を見込生産から受注生産に切換えるアイデアで成功したのがナショナル自転車。トヨタ自動車のジャストインタイムと同様に、「作ってから売る」のではなく。「売ってから作る」のが受注生産である。建物やプラントの世界では受注生産は当然であるが、日用品(コモディティ)となりつつあるパソコンや自転車の世界では、不確定な需要に対処するために、完成品の在庫バッファをもつのが当然とされてきた。
 同社は、実オーダーに対して資材調達・加工・組立・配送までのサプライチェーンのリードタイムを短縮し、いつでもオーダーに対するサプライチェーンのオペレーション状況が見えるようなシステムにした。それにより、新しい製品企画(二〇〇万種のオプション)と新しいマーケティングでシェアを増大させることができたという成功事例である。
 この事例も他の多くのサプライチェーンの成功事例と同じように、競合(輸入品)に対する生き残りの手段として生み出された。「あなただけの自転車を受注生産で二週間のリードタイムで納入する」ビジネスは、「見込生産でリードタイムゼロの即納と欠品の可能性のある不特定多数のための自転車」ビジネスより、顧客満足度は高いと考える発想が重要である。リードタイムの長さは、顧客の求める仕様製品が二〇〇万種のオプションの中から選べるという、消費者の満足感が達成できることを考えれば、マイナス要因というよりもむしろプラス要因となるであろう。
 このようなビジネスモデルの変革は、需要の不確実性が与える経営リスクをどのように滅らし、収益性を上げるかという要求から発している。見込生産のモデルのままで、このリスクに対処しようとすれば、いかに需要予測を正確にするか、いかに需要の変動を平準化する販売政策をとるかが、主要課題になる。受注生産は、このような需要変動をいかに予測するかではなく、変化すること自体を受け入れてフレキシブルに対処しようという発想に基づいている。