ROA(対資産利益率)

キャッシュフローを在庫で割ったROAは、スループットが大きく、在庫が小さいほど大きくなり、サプライチェーンマネジメントの収益性を表わす指標となっている。


 企業の収益性を表わす指標として、一般的には売上高利益率が使われるが、これは売上高に対する期間利益の比率を示したものである。これをROS(リターンオンセールス)といい、売上高営業利益率、売上高経上利益率によって企業の収益性を評価する指標となっている。ただ、これには投入された経営資源である設備や、材料部品、製品の在庫資産などの活用程度は考慮されていない。それよりも、経営資源などの投資と経費を、メイクマネーというゴールとは異なる会計原則で計算された指標である。
 経済成長が右肩上がりのインフレ時代には、資産は在庫であれ、設備であれ、価値が下がることはなかった。しかし、今日の経済はデフレによる資産価値の下落傾向に加えて、多くの製品はライフサイクルが短かくなっており、製品の流通過程で付加価値が上がるということは考えられなくなっている。したがって、資産は少なければ少ないほど、企業にとってはリスクが小さいことになる。
 また、企業経営は、入るキャッシュと出るキャッシュというキャッシュの流れの中で運営されているわけで、キャッシュフローのスピードが速いほど経営体は安定しているといえる。
 サプライチェーンマネジメントは、キャッシュフローのスピードを上げる経営である。また、企業の中でのキャッシュの回転スピードを上げて、企業の健全性を高めることが目的である。したがって、サプライチェーンマネジメントの経営指標はROA(リターンオンアセット:対資産利益率)で収益性をみる方が適切である。これからは、ROSで評価してみても、企業は強くならない。ROAを計算するときの分子になる利益(リターン)も、在庫調整で経費を資産化する従来の原価計算で出した利益では、それはサプライチェーンマネジメントの狙う利益ではない。ROAでは、分子にサプライチェーンのオペレーションのキャッシュフローをもってくる。
 資材調達・生産・物流・販売がサプライチェーンのオペレーションであり、プラント建設などの投資はそのオペレーションを司る資源(リソース)を獲得するためのものとみる。そうすると、製品となる物の流れに伴なうキャッシュフローは売上から材料仕入れと工場・本支店の総合経費(減価償却を除く)を控除した数字となる。このようなROAをサプライチェーンマネジメントの指標にすると、在庫の回転率ということになる。
 ここで示したROAは会計学上のROAとは異なる。また、この指標を企業毎の管理レポートに反映させるには工夫が必要である。管理レポートはあくまでも経営上の意志決定に役立つもの、また決定の結果が即指標に反映されなければならない。経費のどこまで含めるか、物量などの原単位に何をもってくるか、金額と物量をどのように組合せるか、企業毎あるいは事業毎の設計が重要となり、その前程としての事業分析が欠かせない。