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海外スケジューラ事情-6

インドネシアにおける日系製造業のIT事情(6):
インドネシアにおける新しいITの取り組みと侮れぬ中国パワー

インドネシアに工場を持つ、日系製造業のIT事情とは? 中国に3年、タイに3年駐在した経験のある筆者が、それらの国と比較したインドネシア特有のIT導入の実態について現地からレポート。
第6回では、インドネシアでの新しいITの取り組みについて取り上げる。
*本記事は、製造業のための製品・サービス情報サイト『Tech Factory』に連載中です。
連載中の本文はこちらよりご覧いただけます。

モバイルフォンの普及率やキャッシュレスシステムの進展など、ジャカルタで生活をしていると最新のITシステムを利用している
インドネシア人が多いことに気付く。最新のITを有効に利用するためには、システム技術の進歩やインフラ整備の他に、
社会の仕組みの変更も必要なのだと思う。こちらではモバイルフォンを利用していつでもどこでもバイクタクシーの利用が可能だ。
既得権のため、利用が遅れている日本とは好対照だ。インドネシア人の新しいもの好きも背景にあるのかもしれない。

ここにきて、RPA(Robotic Process Automation)などの最新システムも注目されている。筆者としては、業務フローも乏しいインドネシアの企業でそれらシステムの導入が成功するものとは考えていない。また、最低賃金が上がったといってもまだ安い労働力が豊富なこの国で、定型業務の自動化といった流れは、一部の業界(銀行業務など)では適用可能だと考えるが、工場業務にはいかがなものかという感想だ。実際に進取(しんしゅ)の思いで導入を企画しているものの、導入プロジェクト自体がうまくいっていない事例も多く聞く。
 
いまだ正職に就けない人口の多いこの国で、インドネシア政府も人員削減に寄与するこのようなシステムを推進できないのではないだろうか? 工場においても一つ例外があるとすれば、貧しいシステム部門環境の中で、基幹システムを監視するようなシステムニーズは十分可能性があるのではないだろうか?

 

一方、ERPなどをビジネスとするメーカーの間では、IoT(Internet of Things)という観点からも、収集されたデータを
有効に利用分析するにはどうしたらよいか? といった提案がされている。当社(アスプローバ)のシステムも同様だが、
蓄積された情報の精度向上が不可欠となる。先日訪問した最新鋭の工場でも、あくまで、情報の有効利用は情報精度が
90%以上に上がってこないと実現は難しいとのコメントもあり、日系製造業の間では導入に慎重な姿勢がみられる。
ここで、「中身が先か? 形が先か?」の議論もある。業務歴史の浅い工場で、業務レベルの向上を現場だけに任せていては、
いつ実現できるか分からないという論理だ。筆者としても、その主張にも一理あると感じる。当社も現在、生産スケジュール要件の
上がってこない現場に対して、まずはシンプルでこうあるべきという形から導入してしまうという試みをしている。
まだ、始めたばかりなので、この試みが成功するか否かの結論は出ていないが、できるだけ早い段階で現在のサンプルユーザーの
結果を報告したい。

中国パワーがインドネシアにも
先日、中国の香港、深セン、上海に訪問した。当社も中国ビジネスがハイスピードで拡大、進展する中、年内の合資により、
より大きな中国法人に変貌する予定だ。ジェトロインドネシアの方からは、「10年後のインドネシア市場は、現在のように、
日系企業が活躍しているとは限らない。ディシジョンスピードが速く、一国一制度の中国企業がシェアを占めているかもしれない」
との話も伺った。日本人としては残念だが、中国メインランドの大きさだけでなく、ほとんどの東南アジアの財閥が中国系ということ
からしても、中国パワーは否めない。深センは中国のシリコンバレーと呼ばれるにふさわしく、新規のビジネスと技術の向上が著しい。
米国との知的所有権の問題や政治的障害も想定されるが、この勢いは止まらないのではないだろうか? 何にしろ、14億人の
人的資産は侮れない。今後は中国からもインドネシアに新しいITがどんどん流入してくるのではないだろうか?

インドネシアもさらに人口が増えて3億人に到達する勢いだという。若い人口の人口ボーナスも軽視できない。ITへの新しい取り組みと
生産効率化への挑戦、一見すると効率の悪いこの国で、将来を担う人材も増えてきている。進取の気性という国民性からしても、
新しいITに挑戦する姿勢は変わらない。なにぶん、過去の成功体験がないだけに、失敗も恐れない。これからのAI技術や自動運転などの
新しいITの習得発展には欠かせない条件なのではないだろうか? 逆に日本が成功体験の呪縛からいまだに、多機能、高品質を良し
とするカルチャーが残っていれば、新興国に後れを取るのではないか? と心配だ。

蛇足にはなるが、今回上海を訪問して、キャッシュレス化が進んでいることに大変驚かされた。コンビニでもほとんど、携帯電話で支払いが行われ、レジには現金のおつりがほとんどない。偽札の多い中国では有効な仕組みかもしれないが、「ついつい使い過ぎてしまう」と中国人の同僚は嘆いていた。こうした仕組みも中国から近いうちに、インドネシアにも導入されるのであろうか?  

話を製造業に戻すと、先日伺った工場では、日本本社から「IoTの取り組みをするようにいわれているが、何から手を付けて
よいのかが分からない」といった嘆きも聞いた。日本でもまだその明確な定義、導入のステップが定かではない概念であるが故に、
インドネシア工場での取り組みは困難だ。まずは“ラインの見える化”という意味では、MESシステムの導入や装置稼働業況の監視、
品質データの収集分析などが手っ取り早い概念かもしれない。

生産スケジューラにとっても、製造実績管理や装置稼働情報の取得がされれば、正確な生産スケジュール作成につながる。ここへ来て
最新のMESパッケージや装置稼働システムの導入を試みる工場も現れてきた。適用にはカスタマイズやインタフェース開発に時間が
かかるが、歴史ある工場の中では、その実現が近い工場もあった。古くて新しい課題ともいえるが、生産スケジューラと合わせて
予実管理などが実現できると現場の納期順守意識が格段に上がることは、当社のインドネシアユーザーの中でも実証済みだ。

今回はインドネシアでの新しいITの取り組みということで、話があちこちに飛んだが、要はトライ&エラーが不可欠ということ
ではないだろうか? 当社もまた、日々、インドネシア工場での生産スケジューラの導入定着という意味で日々奮闘している。
次回は、個別に異なるシステムとその運用に関して、幾つかの事例を通して説明したい。(次回に続く)

*本記事は、製造業のための製品・サービス情報サイト『Tech Factory』に連載中です。
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アスプローバ株式会社 副社長 藤井賢一郎
日本国内・アジア域で500社以上の製造業に生産スケジューラを導入するプロジェクトに関わる。
ここ10年は中国・タイ・インドネシアとアジア各国に駐在し、ビジネスを拡大。
生産管理・生産スケジューラに関わる複数著書がある。
アスプローバ副社長の藤井のアジア現地での経験、ノウハウがつまった1冊。
「アジアを渡り歩いたIT屋が伝授するアジア進出を成功に導くレクチャー25講」
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