ウォールマート

従来の産業上の壁を取り払って企業のコアコンピタンスに特化し、企業のキャッシュフローを上げた米国小売業界の巨人。


 米国小売業界の巨人ウォールマート社は、サプライチェーンマネジメントの革新事例としてさまざまな視点から引用されている。マイケルハマーの『リエンジニアリング革命』において、ウォールマート社とP&G社の受発注の仕組みとしてVMI(ベンダー管理在庫)が売上に大きく貢献し、製販統合のビジネスプラクティスとして取り上げられた。ウォールマート社と製造メーカーの間では、ジョンソンワックス社との関係もビジネスウィーク誌の中で引用されている。それによると、メーカーはウォールマート社における自社商品の需要動向を把握し、自社の需要予測に基づいて納品する。これは、小売業者の重要な役割である需要分析と在庫管理、そして仕入・発注業務をメーカーが自社向けにアウトソーシングした形と同じになっている。
 このような在庫管理・配送などを仕入先にアウトソーシングするやり方は、仕入先(ベンダー)、メーカー、流通業者、運送業者、小売業者などのサプライチェーン上のオペレーションにかかわる役割分担の見直しを迫るものである。メーカーが販売・仕入れ管理をして、小売が製品を企画する。ウォールマート社はまた、飲料・食品分野において自社のプライベートブランドをたくさんもつとともに、ナショナルブランドも取り扱っている。こうした例は、メーカーに小売業をアウトソーシングしている興味深いビジネスモデルである。
 ウォールマート社のようなプライベートブランドで有名な他の事例は、デパートのJCペニーが自社ブランド「アリゾナ」で、ナショナルブランドである「リーバイス」と肩を並べ年商一〇億ドルを達成していることである。また、デル・コンピューター社は注文生産方式と直接販売(インターネット)を組合せたパソコンビジネスを展開しているが、そこでは流通業も兼ねている。同じようにウォールマート社は小売業と同時にメーカーであり、またメーカーに売場というスペースを提供している不動産業であり、ときには金融業でもある。サプライチェーンマネジメントの視点は、このような従来の産業上の壁を取り払って、企業のコアコンタテンスに特化し、キャッシュフローを上げるための全経営資源を同期化させる発想を生んだことに意義がある。