部分最適と全体最適

問題を部分に分けそれぞれ適解であっても、全体としてみたときは最適になるとは限らない。部分的に理解することも大切だが、全体として最適になる見方も大切である。


 部分最適の和は全体最適ではない。サプライチェーンの一つ一つのチェーンである「調達」「生産」「販売」がそれぞれ最大の効率(たとえばコストダウン)を考えても、全体最適であるキャッシュフローは最大にならない。鑚の一個ずの輪(リング)の強度を合計しても、チェーン全体の強度にはならない。チェーン全体の強度を決めるものは、リングの中で最も弱い部分である。すなわち、ボトルネックが全体の強度を決定している。
 サプライチェーンのキャッシュフローを決定するスループットはボトルネックであり、全体の同期化行為の程度である。サプライチェーンの経営資源のそれぞれの処理能力を合計しても、全体のスループットの能力にはならない。生命体としての健康度や生命力の強さは、健康診断の測定値とメンタルヘルスチェックの測定値を合計しても表現できないし、器官が最適な状態であることと生命体が最適状態であることは一致しない。専門医による局部的病気は治っても、患者が死ぬこともある。
 近代科学の要素還元法は、全体を理解しようとして部分に分けて、部分の理解から全体を理解する方法論であるが、部分の理解が得られても全体がわからないことが多い。企業の経営問題、国家や社会の経済・医療問題など、全体が生き物のように連結している現象を、委員会や分科会に分けて解決策を練ってそれを合計しても、全体がうまくいく保証はない。現在のグローバルな経済問題も、地域別の最適策などではなく、世界経済の問題としてとらえ、複雑系における生命としてのパラダイムで解決策を導かざるを得ないと思う。サプライチェーンマネジメントも、グローバルに展開する市場でのデマンドチェーンに対するグローバルサプライチェーンのモデルが必要であり、経済構造の解明ともかかわっているように思える。
 実は複雑系としてみるサプライチェーンの全体最適といってはみても、そのサプライチェーンのレベルによって、たとえば上位レベルからみれば部分最適となるかもしれない。
 サプライチェーンは企業の経営活動のゴールを上位概念のキャッシュフローと、下位概念のコストや効率の関係を考え直す機会となる。