列車のダイヤとエレベータ

交通システムもサプライチェーンの喩えが成り立つ。列車のダイヤ編成やエレベータの運行をサプライチェーンと比較してみると、よくわかる。


 交通システムとサプライチェーンは、メタファ(比喩)が成り立つ。地下鉄や列車が決められた時刻表(ダイヤ)通りに運行されているのは、季節や月、曜日毎にあらかじめ予測された需要に基づいて見込生産(MTS:メイクツーストック)するようなものである。一方、エレベータにはダイヤがなく、乗客がボタンを押せば一番近いエレベータが乗客のいるフロアまで移動し、ドアを開けてオーダーを受ける。つまり、エレベータの運行は、ボタン操作という発注に基づくプル方式の受注生産(MTO:メイクツーオーダー)である。
 MTSの列車運行は、決まったダイヤに基づいて運転されるので、たとえ天候や何かの事件で乗客が急減しても(需要が少なくなっても)予定通り運転される(生産供給される)。乗客が多過ぎて待っている客が乗れなければ、つぎの列車を待つために、プラットホームに人が溢れる(能力持ちの設備の前に仕掛在庫が山積みされる)。一つの列車でたくさんの乗客(大きいバッチサイズ)を運ぶので、一人当りの単位コストはラッシュアワーのときは低下する。すなわち、バッチサイズが大きいほど効率や生産性が高くなる。昼間は都心でも列車のダイヤが過密でないのは時間間隙が長い方が需要が蓄積し、バッチサイズが大きくなり、経済効率が良くなるからである。
 一方、エレベータはボタンを押さない限り一階か最上階で固定され待機している。ボタンを押す(注文を発行)ことで初めて動き出し、人数には関係なく目的階へ移動する。一人でも(バッチサイズ最小の一個流し)FIFO(ファーストイン・ファーストアウト:先入れ・先出し)のルールが適用され、バッチサイズによる経済性よりも、時間(リードタイム)による利便性という面でサービスを提供している。タクシーの呼び出しも、エレベータと同じMTOといえる。しかし、流しのタクシーは需要予測に基づいて場所と時間を選んで流しているわけで、MTSも行なっているといえる。
 地下鉄やJR、モノレールなどを乗り継いで目的地に行くときの時間(リードタイム)を決めるものは、それぞれの列車の速度と乗り継ぎ駅のプラットホームで待っている時間(仕掛在庫)の合計である。
 乗り継ぎがうまく調整(シンクロナイズ)されていれば、リードタイムは最短になる。