インダストリアルダイナミックス

資材の仕入から生産・流通・小売という連鎖の中で、各工程で得た需要情報の変動が、生産活動にどのように影響するかという、サプライチェーンの在庫変動理論。


 サプライチェーンという用語は、一九六二年にカーネギーメロン大学のフォレスター教授によって使われていた。フォレスター教授はインダストリアルダイナミックスとして、資材の仕入から生産・流通・小売までの供給連鎖の中で、各事業単位の販売活動から得られた需要情報(発注データ)の変動が、生産活動にどのように影響を与えるかをコンピュータでシミュレーションして、サプライチェーンにおける在庫変動の理論を発表した。
 すなわち、生産活動において、小売から卸、流通、工場までの情報伝達の遅れ(タイムラグ)や、発注してから納入までのリードタイムが避けられないので、小売での小さな需要変動が川上のサプライチェーンのオペレーションに大きく影響することを、シミュレーションモデルで実証した。またこの時代は、今とは違って物不足の時代であるので、一度品不足が発生するとつぎの発注に対する納入が遅くなることを予測して、まとめ買いや余分な仕入れをすべきかなどの思惑もあった。そのため、カーネギメロン大学のフォレスター教授は、そうした心理的な要因も加味して、サプライチェーンのオペレーションの挙動を解析した。
 小売が一〇%上昇する流れにあるとき、先を見越してそれ以上の増収を前提に仕入発注を卸に対して行なう。卸は、さらにそれ以上の上昇を見越してメーカーに発注する。小売の一〇%増加は、上流にいくに従って増幅され、工場の能力の制約がないという前提で四〇%まで増大し、その反動で実需はマイナス三%まで減少する。
 そのため、情報伝達のタイムラグや納入リードタイムのパラメータを設定することにより、発注量、在庫残の推移を推定する在庫管理システムが研究されてきた。サプライチェーンの戦略課題は、消費者の購買データからサプライチェーンに関係する各企業間での情報共有の仕組みと、オペレーションを同期化するためのプランニングシステムを活用して、フォレスター教授のインダストリアルダイナミックスで実証されたサプライチェーン上の問題を解決することである。
 インダストリアルダイナミックスで実証する、過剰在庫と機会損失が発生する状況を、発案者の名前をとってフォレスター効果といい、ロジスティックスの専門家の間では有名である。